岩井三四二(作家)

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2月X日 連日のゲラ直しで頭の中が戦国時代になったので、現代にもどろうと東野圭吾著「ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人」(光文社 1800円+税)を手にする。探偵役は物理学者ではなくマジシャン。殺人事件の謎にマジックの謎とコロナ禍の世相がからんでどんどん複雑な話になり、まったく犯人の予想がつかないまま最後の謎解きになだれこむ。よくこんな複雑な構成の話を書けるものだと感心。

2月X日 2月刊の拙著「田中家の三十二万石」(光文社 1800円+税)が校了となってほっとひと息。百姓から筑後32万石の大名になった田中吉政の一代記。豊臣秀吉なみの大出世を遂げていながら、そんな大名っていたの? と言われそうなほど無名な存在なので、小説にして売れるのかと不安はあるものの、逆に無名だからこそ小説にする価値があるとも思う。

2月X日 短編を書くための参考に吉村昭著「白い航跡」(講談社 上700円+税 下660円+税)を読む。明治の日本海軍から脚気をなくした軍医、高木兼寛の話。波瀾万丈の生涯もおもしろいが、話の筋より資料の使い方に興味を持ってしまうのは職業病か。

2月X日 もともと自宅勤務の仕事なので、コロナ禍といっても手洗いとうがいを頻繁にするようになっただけで、生活にさほどの変化はない。通い慣れた喫茶店に出向いて、短編のために小林孝裕著「海軍よもやま物語」(光人社 895円+税)を読む。兵隊さんの生活はパワハラの嵐ですな。戦前に生まれなくてよかったと思う。

2月X日 2月刊の拙著「室町もののけ草紙」(集英社 800円+税)も校了。日野富子を中心に、応仁の乱前後の乱世を生き抜こうと悪戦苦闘する人々の姿を描いた短編集。文庫化にあたって短編を3つ追加したので、1冊の本としてまとまりがよくなったと同時に、お買い得になっています。「田中家の三十二万石」ともどもご愛顧のほどを。

【連載】週間読書日記

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