竹倉史人(人類学者)

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8月×日 警察署に国際免許証を取りに行く。次回作「続・土偶を読む(仮題)」の取材で、来週からヨーロッパ各地を訪れる。「土偶を読む」(晶文社)では縄文時代の土偶が「植物の仮面を装着した精霊像である」という新説を発表したが、次作では土偶が製作された目的の解明を試みる。そして、そのヒントが3~4万年前のドイツ南西部からオーストリア周辺に隠されている。有名な「ヴィレンドルフのビーナス」を始め、このエリアからは人類最古級の不思議な姿をしたフィギュアが発見されているが、これらもまた植物の精霊像だというのが私の見立てである。土偶のルーツがここにある。

8月×日 編集者の主催で「土偶を読む図鑑」(小学館 1980円)の関係者の打ち上げ@銀座。図鑑の漫画を担当してもらった武富健治氏に再会! ハニワと土偶が戦いを繰り広げる武富氏のSF最新作「古代戦士ハニワット」(双葉社 748円)の話で盛り上がる。

8月×日 湘南の書店で奥野克巳著「一億年の森の思考法」(教育評論社 1980円)を入手。奥野氏はボルネオ島の狩猟民プナンの調査で知られる人類学者だ。「一億年」というのは、現在の熱帯雨林が被子植物とその花粉や種子を運ぶ昆虫や動物らによって形成された時間。現生人類がボルネオ島に到達したのは4万年前だから「つい最近」のことだ。

 この悠久のスケール感は、本書の中で語られる「パースペクティヴィズム」にも通じる。これは南米の先住民を調査した人類学者カストロが定式化した概念で、人間同様、動物や植物、はては精霊までもが自らを「人」として自認・知覚しており、この宇宙はかような無数の人格的な視点(パースペクティヴ)から構成されるとする並行的な世界観のことである。

 古代に栽培を行っていた縄文人たちも、植物の成長をこのように認知していた可能性が高い。なにしろかれらが作る人体型フィギュア=土偶は「植物の仮面」を装着しているのだから。人類学の知見を活用すれば新しい縄文の世界を描き出せる──奥野氏の好著に刺激された私だった。

【連載】週間読書日記

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