新ジャンルとの出会い 映画案内本特集

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「インディペンデントの栄光」堀越謙三著、高崎俊夫構成

 いまや好きなときに好きな映画を好きな場所で楽しめる時代。しかし、読書と同じで、見る映画のチョイスはどうしても自分の好みのジャンルに偏りがちだ。そこでいつもとは、ちょっと違った映画選びの案内役になってくれる本を紹介する。



 1980年代初頭から独自の審美眼で選んだ作品を公開する先鋭的な映画館が次々と誕生。「ミニシアター時代」ともいうべき活況を呈した。このムーブメントの中心にいたユーロスペース代表への聞き書き集。

 大学卒業後、ドイツに渡った氏は、現地で友人らと旅行代理店を設立。帰国後にドイツ新作映画祭などを企画し、1982年に渋谷に劇場を立ち上げる。しかし、認可問題で当局から営業停止を受けるなど船出から受難、借金も抱えてしまう。また業界の慣例を知らず摩擦も起きる。

 そんな草創期の苦労話から、後にプロデューサーも務めることになる監督レオス・カラックスとの出会いや、劇場史上最高の興行成績を残したドキュメンタリー映画「ゆきゆきて、神軍」、そしてアキ・カウリスマキら日本で初めて紹介した監督らとの交流まで。

 同館で手掛けた作品とともに、監督らの素顔やエピソードも交えながら回顧。ミニシアター時代の濃縮した時間が蘇る。

(筑摩書房 2200円)

「この1本!」ホイチョイ・プロダクションズ 馬場康夫著

 シリーズ映画やある監督の作品の中からどれか1本を見るなら、どれを見るべきか。そんなお悩みに答えてくれる、定額見放題のサブスク時代にピッタリの映画ガイド。

 例えば国民的シリーズ「男はつらいよ」ならどの1本を見るべきか。その前に、「男はつらいよ」をまだ1本も見ていないという人のために、シリーズの概要から誕生の舞台裏、そして人気の秘密まで詳しく解説。全50作品を現在の視点から採点した上で、脇役が名優ぞろいで、文句なしに笑えて、恋愛ドラマとしても最高、そしてラスト10分の展開が見事だと第17作「寅次郎夕焼け小焼け」(マドンナは太地喜和子)を推す。

 他にも「007」「スター・ウォーズ」「黒沢明監督作品」「高倉健任侠映画」、さらに「フランス不倫映画」まで。豊富な知識とリサーチから、それぞれのジャンルごとに多くの作品を紹介しながら、お薦めの1本に絞り込む。その1本はもちろん、登場するすべての映画を見たくなる。

(小学館 1980円)

「クエンティン・タランティーノ」イアン・ネイサン著 吉田俊太郎訳

 異才タランティーノ監督の人生とその作品を読み解きながら、比類まれな創造力の源に迫るビジュアルブック。

 1963年に生まれた氏は、10代になるまでに何千本もの映画を見たという。早熟で聡明な少年で、IQが160もあったが学校にはなじめず自ら中退。マニアックな品ぞろえのビデオ店で働きながら、脚本を書き、そのときに書いた脚本から後に「トゥルー・ロマンス」や「ナチュラル・ボーン・キラーズ」、「パルプ・フィクション」が生まれたという。

 映画製作に乗り出そうとするが、なかなか端緒がつかめず、あるパーティーでその後20年以上、ビジネスパートナーとなる駆け出しの映画プロデューサー、ローレンス・ベンダーと出会い意気投合。初監督作品「レザボア・ドッグス」(1992年公開)が動き出す。以降、2019年公開の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」まで。豊富なスチール写真とともに全作品の製作の舞台裏を詳述したファン必携本。

(フィルムアート社 3300円)

「韓国女性映画」夏目深雪編

 儒教社会で、男尊女卑が強い韓国の映画界でも、近年、優れた女性監督が台頭し、女性映画の傑作が生まれている。犯罪映画やサスペンス映画などこれまで男性監督の独壇場だったジャンルでも女性が活躍しているという。そんな韓国女性映画の今を伝えるテキスト。

 まずは韓国映画界に女性が台頭するきっかけをつくったイム・スルレ監督と、2010年の長編デビュー作「虹」が東京国際映画祭の最優秀アジアン映画賞を受賞したシン・スウォン監督にインタビュー。自身の作品と韓国映画界で女性が監督を務める難しさなどを聞く。他にも内外の映画祭で高く評価されたチョン・ジュリ監督の「私の少女」や今年の大阪アジア映画祭で上映されたドキュメンタリー「バウンダリー:火花フェミ・アクション」など、お薦めの作品を紹介。さらに是枝裕和監督の最新作に出演するペ・ドゥナらを取り上げた女優論など。韓国映画の新潮流とその魅力について語る。

(河出書房新社 2475円)

「特撮黄金時代」八木毅編

 ゴジラやウルトラマンなど、子どもも大人も魅了した「特撮の神様」円谷英二監督。監督とともに傑作の数々を生み出し、今や特撮レジェンドとなった当時のスタッフへのインタビュー集。

 円谷英二イズムを最も継承しているといわれるのが、多数の円谷プロ作品で撮影監督や特殊技術監督を務めてきた佐川和夫氏。映画の世界に憧れ、日大芸術学部に入学した氏は、ある日、友人に誘われ円谷監督の家に押しかける。それが縁で「日本誕生」(1959年公開)の撮影現場でアルバイトをするようになり、卒業後は円谷プロに創立メンバーとして参加。そんな円谷監督との出会いから、現場での監督の言葉や、見て学んだ特撮技術、さらに関わった各作品の撮影時の知られざるエピソードまで語る。

 他にも、本多猪四郎監督の長男で幼いころから撮影現場を遊び場として育ったという本多隆司氏や三男の円谷粲氏など。さまざまな視点から円谷監督の素顔とその仕事ぶり、特撮の本質を語る。

(立東舎 2750円)

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