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「AIが私たちに嘘をつく日」妙木浩之著

 いまやAI(人工知能)を除いて未来は考えられない。だが、本当のところ、それはどんな文明なのか。



 AIといえば、まるで万能の神であるかのごとき「AI様信仰」が流布されている。生身の人間では追いつかない膨大な深層学習の積み重ねで、たちどころに難問を解き、並み居るプロ棋士たちをも圧倒する。だが、AIは果たして「嘘をつく」ことができるのか。そう問う著者は心理学者。きっかけは、4年前に見たイギリスのドキュメンタリーで対話型ロボットがユーモアをまじえながら家族のお悩み相談に答える場面に触れたことだという。相談者の目の動きや心拍数を測定する装置の助けを得たとはいえ、家族の秘密を明らかにする巧みな誘導術に、患者との対話が重要な精神分析の専門家として大いに驚かされたというのだ。

 それゆえ、本書のいう「嘘」とは正しいことでも、とりあえず伝えずにおくような配慮を意味する。いいかえればAIは「嘘も方便」を理解できるのかというわけだ。「ですます」調で平明に書かれた入門書だが、AIが導くのは「適」であって「正」や「真」ではない、人の心が宿るのは対人的な「関係性の中」など、はっとする指摘が随所にある。

 未来のAIが人間の家族になり、独居老人の伴侶にまでなる時のことに触れた本書末尾の問いかけは、まるでSF小説のようにスリリングだ。

(現代書館 1870円)

「デジタル革命の社会学」アンソニー・エリオット著 遠藤英樹ほか訳

 AIはデジタルテクノロジーの進化形だといわれる。だが、オーストラリアで知られた大物社会学者の著者は違うと断定する。AIは「全てのテクノロジーのメタモルフォーゼ」──つまり全部が融合し変身したのがAIだというのだ。

 AIは個人のライフスタイルを変えるだけでなく、「組織や社会システム、国民国家、グローバル経済」とあらゆるものに変革をもたらすのだ。著者は単純にAIがもたらす未来は明るいと楽観論を述べているわけではない。むしろAIの影響を過小評価しがちな現代社会に警鐘を鳴らすのが本書のメッセージの核心だろう。

 訳者はそれを新型コロナウイルスになぞらえている。つまり、新型ウイルスが次から次へと変異株を生み出しているのと同じく、AIの時代を経験する人間の生も自己も社会も多種多様な変異(バリアント)を形成しているというのだ。激変にそなえよと説く文明論である。

(明石書店 2750円)

「テクノソーシャリズムの世紀」ブレット・キング、リチャード・ペティ著 上野博訳

 著者の一人はモバイルバンキングのスタートアップ企業を起こし、オバマ政権のフィンテック(経済技術)分野の戦略アドバイザーも務めた未来学者。もう一人はオーストラリア出身で香港を拠点に国際金融の世界をまたにかける政策アドバイザーにして起業家。まさに生きた経済の最前線でAIを含むデジタル技術がもたらす変化とその未来を読んできたコンビといえよう。

 ソーシャリズムは「社会主義」と訳されるが、本書ではむしろデジタル技術(テック)が否応なく全体を1つにして宇宙船地球号を率いてゆく、そのトータルな社会のあり方のことと説明したほうがよさそうだ。こうした世の中で忌むべきは利己主義と自分の属する集団だけの利益を優先するトライバリズム(部族主義)。デジタル化は個人の裁量の幅を広げるだけでなく、他者を尊重するコモンズ(共有地)をも広げるし、そうあるべきだという提唱だ。

 人類はテクノロジーを使って自分たち全体にとっての最適解を追求すべきなのだ。

(東洋経済新報社 2640円)

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