ロシア、宇宙開発から離脱

公開日: 更新日:

「ロシアの星」アンヌ=マリー・ルヴォル著 河野万里子訳

 ウクライナ侵攻で国際的に孤立するロシア。ついにスペースシャトル計画からも離脱を表明した。



 ソ連時代に始まるロシアの宇宙開発には奇妙にファンタジーのにおいがある。初の人工衛星打ち上げでアメリカに多大なショックを与えた「スプートニク・ショック」は冷戦期の大事件だったが、その後に続くガガーリン少佐の初めての有人宇宙飛行のニュースは、世界にバラ色の未来が見えたかのように歓迎された。女性として初めて宇宙を飛び、「私はカモメ」の言葉を残したテレシコワ中尉のイメージもあっただろう。

 本書はそんな故事をふまえつつ、現代のニューヨークに住むロシア系移民の祖父と孫を主人公に、“ガガーリン神話”の裏面を垣間見るという連作小説。

 かつてのソ連製の宇宙船が競売になると聞いて祖国の悲哀をおぼえた祖父は、ガガーリンすら知らない孫に祖国の偉業を話して聞かせる。だが、続く物語は一転して地球に帰還したときのガガーリンと農夫一家の話になり、さらにはガガーリンの同僚の宇宙飛行士チトフの話へとつながる。

 ガガーリンは初飛行から7年後、わずか34歳で事故死したが、1991年に開示された機密資料などを駆使し、ニューヨーク在住のフランス人作家は、まるで駅伝ランナーが新たなタスキをつなぐように豊饒な物語をつむいでいる。20世紀の宇宙開発は人類共通の夢だったのだ。

(集英社 2750円)

「アポロ18号の殺人(上・下)」クリス・ハドフィールド著 中原尚哉訳

 初の月面着陸を成功させたアメリカのアポロ計画はアポロ17号で終わった。

 本書は「その次」がもしも計画されていたら……という発想で書かれた架空の宇宙開発史。著者は、なんとカナダ人として初めて国際宇宙ステーション船長を務めた元宇宙飛行士だ。

 実はこのアポロ18号は飛行中にライバルのソ連偵察衛星を撮影し、できれば無力化するという密命を帯びていた。さらに月面に降りると、ソ連の月面探査車を相手に秘密の軍事行動を行う予定だった。

 ところが打ち上げ直前に船長が事故死。急ぎ補欠でチーム再編する一方、ソ連も米国の動きを察知していたのである。スペースシャトルの米ロ蜜月が遠ざかる今、奇妙なリアリティーをおぼえる力作だ。

(早川書房 各1166円)

「中国の宇宙開発」林幸秀著

 ロシアが離脱する一方で、進出を強めるのが中国。「一帯一路」計画の発想は地球に限った話ではない。著者は日本の科学行政に長年たずさわってきた官僚でJST(科学技術振興機構)研究開発戦略センターの上席フェロー。特に中国の技術やイノベーションに詳しい。本書はコロナ禍前に出版された報告書だが、これを見ただけでも中国の宇宙開発力が急速に向上しているのがわかる。

 2015年時点での宇宙技術力の国際比較で中国は100点満点の51.5点。米94点、ロシア61.5点には及ばないが、日本53点には肉薄する勢いだ。豊富な資金と圧倒的なマンパワーは著者も認めるところ。課題はオリジナリティー。まさに自動車など製造業からファッションなどのソフトパワーまでの課題と同じだ。つまり早晩克服するということである。

(アドスリー 1320円)

【連載】本で読み解くNEWSの深層

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  2. 2

    永野芽郁「キャスター」視聴率2ケタ陥落危機、炎上はTBSへ飛び火…韓国人俳優も主演もとんだトバッチリ

  3. 3

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  4. 4

    風そよぐ三浦半島 海辺散歩で「釣る」「食べる」「買う」

  5. 5

    広島・大瀬良は仰天「教えていいって言ってない!」…巨人・戸郷との“球種交換”まさかの顛末

  1. 6

    広島新井監督を悩ます小園海斗のジレンマ…打撃がいいから外せない。でも守るところがない

  2. 7

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  3. 8

    令和ロマンくるまは契約解除、ダウンタウンは配信開始…吉本興業の“二枚舌”に批判殺到

  4. 9

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意

  5. 10

    永野芽郁「二股不倫」報道でも活動自粛&会見なし“強行突破”作戦の行方…カギを握るのは外資企業か