中澤日菜子(作家)

公開日: 更新日:

11月×日 大学2年生の次女が「ツイッターで見て美味しそうだったから」といって、中央アジアの米料理「プロフ」を夕飯に作ってくれる。ピラフに似た料理で、米を豆やマトンと炒め煮にした料理。「うまいうまい」と食べているうちに、中央アジアを舞台にしたコミック「乙嫁語り」の最新刊がそろそろ出ているんじゃないかと気づく。調べてみるとやはり出ていた、最新巻14巻! いそいそと買い求める。

 森薫著「乙嫁語り」(KADOKAWA 792円)は19世紀中央アジアカスピ海周辺の地方都市が舞台の連作コミック。主人公のアミルが山向こう(おそらく今のキルギスあたり)から、ウズベキスタンの町に嫁いでくるところから始まる物語だ。「乙嫁」とは「若い嫁さん」の意味。狩り、羊の放牧、馬競べ、刺繍にパン焼き、部族間の抗争──19世紀中央アジアの生活がいきいきと活写されている。読んでいるうちに、じぶんもその場にいるような感覚にひたれる。最新14巻ではアミルの長兄・アゼルの嫁取りが物語の中心になっている。3年で2冊出るか出ないかというゆっくりめのコミックなので、こちらもゆっくりと味わうように何度も繰り返し読む。

11月×日 「乙嫁語り」に刺激を受け、武田百合子のロシア紀行「犬が星見た」(中央公論新社 990円)を読み返す。武田百合子は「ひかりごけ」で有名な作家・武田泰淳の奥さん。1969年に武田夫妻が参加したシルクロードの旅が記録されている。ちょうど「乙嫁語り」の100年後の彼の地にあたるのではないか。ロシア領となり、コルホーズやソフホーズといった枠組みに入れられたカザフスタンやウズベキスタンのひとびとの日々の生活を、武田百合子という稀有な感性を持った作家が、鋭利な刃物で切り取るように描いていく。未だコロナ禍で(しかも円安)なかなか自由に海外旅行はできないが、もろもろ落ち着いたらぜひ中央アジアに飛んでいきたい--そんな気持ちにさせてくれる2冊である。

【連載】週間読書日記

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  4. 4

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  5. 5

    “名門小学校”から渋幕に進んだ秀才・田中圭が東大受験をしなかったワケ 教育熱心な母の影響

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  3. 8

    星野源「ガッキーとの夜の幸せタイム」告白で注目される“デマ騒動”&体調不良説との「因果関係」

  4. 9

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  5. 10

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも