社会事情を反映し風刺を効かせて描くコメディー

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 コメディーは国境を超えない。笑いは万国共通というけれど、それはお子さまレベルの話。大人の笑いは風刺も皮肉も社会事情と切り離せない。

 今週末封切りの「僕らの世界が交わるまで」はその実例だろう。一見、思春期の息子と母親のあるある話のようだが、実は意外に手ごわいハリウッド映画だ。

 DVの被害女性シェルターを運営する母親は正義派の社会活動家。一人息子は自分のユーチューブチャンネルにしか興味がないミュージシャン志望の“意識低い系”高校生。そんな息子に落胆し、母親はシェルターに入った女性の孝行息子に入れ揚げてしまう。

 他方、息子は意識高い系の同級生女子にひと目ぼれして真似してみるものの、これも空振り。

 母と息子がそっぽを向いて同じ落とし穴にはまるプロットは喜劇そのものだが、盛り付けと味付けが違う。特にジュリアン・ムーア演じる母親は長ゼリフで「白人・中流・リベラル」にありがちな上から目線の差別意識を露呈してしまう。彼女はメリル・ストリープの次の世代の演技派だが、リベラル派のあるある像を、一歩間違えば単なる戯画になる直前で抑えて、文字通り苦い笑いを誘うのだ。

 監督・脚本のジェシー・アイゼンバーグは「ソーシャル・ネットワーク」の主役で知られた俳優。脚本の腕はなるほど確かだ。妻の横でおろおろするだけの父親が息子に言うセリフが笑わせる。

「ブルースはやめとけよ。アミリ・バラカが白人のブルースは文化の盗用と言ってる」

 アミリ・バラカは旧名リロイ・ジョーンズの黒人ジャズ評論家。ジャズ喫茶全盛期には「ブルースの魂」が読まれたものだ。それが今「ブルース・ピープル」(飯野友幸訳 平凡社 1760円)の新訳で出ている。「白人中流の価値観」との決別を! と叫ぶ彼の怒声が、あの父親のおびえたセリフの背景に鳴り響いている。 <生井英考>

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