著者のコラム一覧
金井真紀文筆家・イラストレーター

テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て2015年から文筆家・イラストレーター。著書に「世界はフムフムで満ちている」「パリのすてきなおじさん」「日本に住んでる世界のひと」など。

「ピロスマニ 放浪の画家と百万本の薔薇」ギオルギ・ガメズ著、児島康宏訳

公開日: 更新日:

「ピロスマニ 放浪の画家と百万本の薔薇」ギオルギ・ガメズ著、児島康宏訳

 わたしは外国語が好きだ。でもまともに話せたり読み書きできる言語はひとつもない。ただのひとつも! じゃあ何が好きなのかというと、まずは音だ。タイ語のまろやかな抑揚、フランス語の喉から出る音、ズールー語(南ア)の舌をカチカチ鳴らす音……。わたしは外国語の会話を聞いて、意味はまったく拾えないのに音にうっとりしているのだ。もうひとつは文字。アムハラ語(エチオピア)とかビルマ語(ミャンマー)とか、ぜんぜん読めないのに文字を見るとうれしくなるのはなぜだろう。

 さて「世界かわいい文字選手権」で上位に食い込むと予想されるのがジョージアのグルジア語。日本に紹介されるグルジア語の映画や物語には必ず児島康宏さんのお名前がある。文法がやたら難しいらしいグルジア語の第一人者だ。今回ご紹介するグラフィックノベルの翻訳ももちろん手がけている。

 主人公はかの国の「国民的画家」ピロスマニ。その素朴な画風、貧しさのなかで生涯を終えた運命、そしてロシアの歌謡曲「百万本のバラ」に歌われた、かなわぬ恋のエピソードで知られる。本編はわずか80ページの短い漫画だが、ピロスマニという画家の孤独がじんわり伝わってくる。実らぬ恋の物語なのに、なんとなく明るいのもいい。恋が成就するかどうかよりも、人を好きになれるかどうかのほうが大事なのかもしれないなぁなんて思えてくる。

 最終盤に「サルバドールとも飲んダリ」というセリフが出てきて、この駄洒落はなんだ? と思ったら、訳者あとがきでちゃんと種明かしがしてあった。これぞ外国語のおもしろさ。

(書肆侃々房 2200円)

【連載】金井真紀の本でフムフム…世界旅

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    横浜とのFA交渉で引っ掛かった森祇晶監督の冷淡 落合博満さんは非通知着信で「探り」を入れてきた

  2. 2

    複雑なコードとリズムを世に広めた編曲 松任谷正隆の偉業

  3. 3

    中学受験で慶応普通部に進んだ石坂浩二も圧倒された「幼稚舎」組の生意気さ 大学時代に石井ふく子の目にとまる

  4. 4

    ドジャース内野手ベッツのWBC不参加は大谷翔平、佐々木朗希、山本由伸のレギュラーシーズンに追い風

  5. 5

    「年賀状じまい」宣言は失礼になる? SNS《正月早々、気分が悪い》の心理と伝え方の正解

  1. 6

    国宝級イケメンの松村北斗は転校した堀越高校から亜細亜大に進学 仕事と学業の両立をしっかり

  2. 7

    放送100年特集ドラマ「火星の女王」(NHK)はNetflixの向こうを貼るとんでもないSFドラマ

  3. 8

    維新のちょろまかし「国保逃れ」疑惑が早くも炎上急拡大! 地方議会でも糾弾や追及の動き

  4. 9

    出家否定も 新木優子「幸福の科学」カミングアウトの波紋

  5. 10

    【京都府立鴨沂高校】という沢田研二の出身校の歩き方