朝倉かすみ(作家)
5月×日 リラ冷えの札幌、気温12度。薄ら寒いが我慢している。「ストーブを点けたら負け」という謎の勝負がこの時期の北海道にはある。
5月×日 たまらずストーブ点火。寒いと幸せな気持ちになれない。ただでさえアトピーで顔が赤くただれ、口内炎が3コできているのだ。これ以上気持ちが下がったら不機嫌になる。イライラが高じ些細なことでブチ切れ、大暴れするかもしれない。
まーそんなことはないだろうが、いつなんどき老害が花開いてもおかしくないような気がして、いつも、なんとなく不安なわたしだ。
今年65歳になるのである。「老」の字が表紙に躍る本が目につくようになった。手当たり次第に読んでいると、持ち前の心配症と合体し、恐怖や不安が膨れ上がる場合がたびたびある。しんどすぎて、老いの現実に真摯に向き合うのも大事だが、ちょっとズラすのも大切ではないかと思うようになった。
そこでタイトル買いしたのが、みうらじゅん著「アウト老のすすめ」(文藝春秋 1540円)。
お名前は存じ上げていたのだが、著作を読むのは初めてで、だから、本気で驚いた。
まず「はじめに」の深さと力強い煽り。「僕は何者なのか?」「何者でもない」「たまたまこの世に生を受けただけ」「(それが)正体なのに、何を恐れ、悩むことがあるだろうか?」「面白くするのも、つまらなくするのも、自分次第であるってこと」。
読んでいくうちに熱いものが込み上げてきた。「もう好き嫌いなんて言ってる場合じゃない」から後はよく分からなかったが、そんなことはどうでもいいと思うほどだ。
エッセー集だが、さまざまなスタイルで書かれている。コントというかキレのいいピンネタのようなものが案外多い。
取り分け好きだったのが「いい走馬灯のために」。死の直前に見ると言われているアレをよりよくしようという試みである。わたしは終活と称して「一緒に火葬してほしいものベスト10」を定期的に考えているのだが、それよりよほど面白そうだ。ぜひ取り組んでみたい。