著者のコラム一覧
佐々木常雄東京都立駒込病院名誉院長

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

がんは制圧できても住めない地球になれば人類は消滅する

公開日: 更新日:

 近所に2人の天才児がいます。私も妻もかつてこんな天才児に出会ったことがありません。

 Aちゃんは小学3年生の女の子で、幼稚園の頃から我が家に遊びに来ます。天才と思う特技は「動物と会話ができる」こと。犬が吠えて向かってきても、Aちゃんは自分から近づいていきます。かじられても離しません。そして、どんな犬とも仲良くなるのです。

 幼い頃は、どこまでも犬を追っかけて行くので、迷子になるのが心配でした。ニワトリでも、抱きかかえて、突っつかれて血が出ても離しません。破格のワイルドタイプです。

 最近、お母さんの言うことをなんでも聞くという条件で、とうとう黒い柴犬を飼ってもらえることになりました。Aちゃんは、現代人の型にはまらないで、このまま育ってほしいと思う私はわがままでしょうか。

 向かいのI家に住むY君は、あと2カ月で5歳になります。アメリカンスクールに通っていて、午後はおばあちゃんと一緒に過ごしています。

 たまたま家の前で、お母さんとY君の会話を聞いて驚きました。96歳のひいばあさんが先日亡くなった時の話です。

「夜中、顎が上下に動いて呼吸が止まった。亡くなったのは11時15分。……焼き場に行った……骨は白かった」

 そんな話をしていたY君に、私は思わず声をかけました。

「すごい記憶力!」

 それからY君は我が家に3回、遊びに来ています。そのうち2回はトランプを持ってきて、「神経衰弱」をやりました。裏向きにしてバラバラに並べたカードの中から、同じ数字のカード(ペア)を見つけていきます。

 驚いたことに、Y君は私と妻がめくったカードの数字をすべて記憶しています。しかも、じっと注視しているのではなく、あちこち見渡しているのに記憶できているのです。妻は3ペア、私は1ペアだけしか取れず、あとはすべてY君が手にしました。彼の完勝です。

 次に遊びに来た時は、大相撲の絵柄のトランプを持ってきました。Y君は、お相撲さんの難しい名前をすべて漢字で覚えていました。神経衰弱もまたわれわれは完敗でした。聞けば、I家の大人たちもY君には勝てないといいます。

■コロナ蔓延は報いかもしれない

 話は変わりますが、宇宙ができたのは137億年前で、地球は46億年前に太陽の惑星になったといいます。二足歩行の霊長類、人間の祖先が現れたのが600万年前。1万年前に氷河期が終わり、温暖な気候となって農耕が行われるようになりました。

 18世紀半ばの産業革命以降、化石燃料の使用で大量の温室効果ガスが排出され、さらに森林の減少によって大気中の温室効果ガスの濃度は急激に増加しました。これが地球温暖化の原因と考えられています。

 南極と北極の氷は解け、風雨災害が頻発しています。地球全体の気温を下げて、自然と共に生きられる地球に戻せるでしょうか? いや、もう遅いでしょう。今から対策するのでは遅いのです。がんは制圧できても、住めない地球になって人類は消滅する……これを否定できなくなっています。人類滅亡を少しでも遅らせるように努力するしかありません。

 世界中が一緒になって地球を守らなければならない時に、自国ファーストのリーダーが出てきました。何よりも自国経済を最優先しています。

 そして、人類を脅かす新型コロナウイルスが世界に広がりました。今度のウイルスはとても手ごわい。無症状の感染者をつくって蔓延する、これまでにない挑み方をしています。全世界で何十万人死ぬか分からない。人間が、わが物顔に地球を壊してきた報いなのかもしれません。

 昨年、アフガニスタンで銃撃され亡くなった医師、中村哲さんの言葉を思い出します。

「日本の富は日本の自然だ。自然を守ることが大切だ」

 スウェーデンの環境活動家グレタさんは、17歳にして地球の危機を叫んでいます。

 Aちゃん、Y君、近所では他にも小学生の3きょうだい、スケボーの上手な小学生も「おはよう!」「こんにちは」とあいさつしてくれます。そして、遠く離れて暮らしているけれど、送られてくる動画で目にする生まれて5カ月のかわいい初孫の成長が、私にとっては生きる源です。

 地球の人類もまだ捨てたものではない――そう思い直すことにしました。彼らが幸せに過ごせるように、われわれは少しでも地球の環境悪化を抑え、自然を守らなければなりません。

■本コラム書籍「がんと向き合い生きていく」(セブン&アイ出版)好評発売中

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がもしFA3連敗ならクビが飛ぶのは誰? 赤っ恥かかされた山口オーナーと阿部監督の怒りの矛先

  2. 2

    大山悠輔が“巨人を蹴った”本当の理由…東京で新居探し説、阪神に抱くトラウマ、条件格差があっても残留のまさか

  3. 3

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  4. 4

    大山悠輔に続き石川柊太にも逃げられ…巨人がFA市場で嫌われる「まさかの理由」をFA当事者が明かす

  5. 5

    織田裕二がフジテレビと決別の衝撃…「踊る大捜査線」続編に出演せず、柳葉敏郎が単独主演

  1. 6

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 7

    ヤクルト村上宗隆と巨人岡本和真 メジャーはどちらを高く評価する? 識者、米スカウトが占う「リアルな数字」

  3. 8

    どうなる?「トリガー条項」…ガソリン補助金で6兆円も投じながら5000億円の税収減に難色の意味不明

  4. 9

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  5. 10

    タイでマッサージ施術後の死亡者が相次ぐ…日本の整体やカイロプラクティック、リラクゼーションは大丈夫か?