著者のコラム一覧
神崎浩孝医学博士、薬剤師

1980年、岡山県生まれ。岡山県立岡山一宮高校、岡山大学薬学部、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科卒。米ロサンゼルスの「Cedars-Sinai Medical Center」勤務を経て、2013年に岡山大学病院薬剤部に着任。患者の気持ちに寄り添う医療、根拠に基づく医療の推進に臨床と研究の両面からアプローチしている。

6つのステップのいずれかを阻害しウイルスの増殖を抑える

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 ウイルス感染症の治療には、感染症に伴うさまざまな症状に対処する薬と、ウイルスそのものの増殖を抑える抗ウイルス薬を使います。抗ウイルス薬の作用を理解するためには、「ウイルスとは何なのか」と「ウイルスが増殖する機構」を知る必要があります。

 生き物は「細胞を基本単位とし、自己複製(増殖)ができるもの」と定義されますが、この定義からすると「ウイルスは生物ではない」と言えます。自己増殖できないからです。ウイルスは別の生き物(宿主)に侵入し、その生物の細胞を借りて増殖するのです。

 では、ウイルスは何なのか? なぜ増殖できるのでしょうか。

 ウイルスは「核酸がタンパク質の殻にパッケージされたもの」です。この核酸が遺伝子の本体で、同じウイルスをつくるもとになります。また、核酸が変化することで「新型ウイルス」が生まれます。核酸にはDNAとRNAがあることは前回解説した通りです。

 ウイルスの増殖は、①宿主細胞の表面にウイルスが吸着・結合する(結合できる宿主とできない宿主がいる)→②細胞内への侵入(核酸の遊離)→③核酸の複製→④タンパク質(殻)の合成→⑤タンパク質の殻で核酸を包み込む→⑥宿主細胞外に放出される……という順序で進みます。つまり、このいずれかのステップを抑えることでウイルスの増殖を抑える薬が、抗ウイルス薬です。たとえば、抗インフルエンザ薬のアビガンやゾフルーザは③のステップを抑え、同じくインフルエンザ薬のタミフルは⑥のステップを抑えます。

 それぞれのステップがウイルスごとに違うものもあれば、似ているものもあります。そのため、抗ウイルス薬は「それぞれのウイルスに合った新しいものを開発する」ことと、「別のウイルスに対する薬を流用する」ことで開発が進められています。

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