<10>昆虫ウイルスが“証明”した自然免疫の強い抗ウイルス力

公開日: 更新日:

 蛾などの昆虫に感染するウイルスに「バキュロウイルス」というものがある。バキュロウイルスを哺乳類由来の細胞に接種すると、細胞内にウイルスは侵入するものの、ウイルスのタンパク質を合成することができず、増殖しない。細胞内に侵入したウイルスはそのまま分解されてしまうのだ。

 千葉工業大学の阿部隆之博士(現神戸大学准教授)は、2003年に興味深い論文を発表した。バキュロウイルスをマウスの鼻に垂らした後に、「致死量」のインフルエンザを接種したところ、マウスはまったく死ななくなったのだ。

 この研究成果は、なかば偶然の産物であった。阿部博士は当初、バキュロウイルスを用いて、インフルエンザのワクチンの開発を目指していた。バキュロウイルスを人工的に改変して、インフルエンザウイルスのタンパク質を発現させたのだ。彼は、ワクチン未接種群の「陰性対照」として、インフルエンザウイルスのタンパク質を発現しないバキュロウイルス(野生型)を用いたのだ。常識から考えると、陰性対照のマウスは全滅する。ところが、予想に反して、マウスは死ななかったのである。つまり、野生型バキュロウイルスが、インフルエンザワクチンとして働いてしまったのだ。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    気温50度の灼熱キャンプなのに「寒い」…中村武志さんは「死ぬかもしれん」と言った 

  3. 3

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  4. 4

    巨人阿部監督はたった1年で崖っぷち…阪神と藤川監督にクビを飛ばされる3人の監督

  5. 5

    (4)指揮官が密かに温める虎戦士「クビ切りリスト」…井上広大ら中堅どころ3人、ベテラン2人が対象か

  1. 6

    U18日本代表がパナマ撃破で決勝進出!やっぱり横浜高はスゴかった

  2. 7

    日本ハム・レイエスはどれだけ打っても「メジャー復帰絶望」のワケ

  3. 8

    志村けんさん急逝から5年で豪邸やロールス・ロイスを次々処分も…フジテレビ問題でも際立つ偉大さ

  4. 9

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋

  5. 10

    (2)事実上の「全権監督」として年上コーチを捻じ伏せた…セVでも今オフコーチ陣の首筋は寒い