数学偏重の医学界…「この世は人知の及ばない摂理に支配されている」のでは
そういう場合、職人は説明できません。職人は「自分でもよくわからないけど……」としか答えようがないのです。
よく「縫い付けるのに針をどれだけの数、かけますか?」などと尋ねられますが、これまで1万本以上、血管を縫い付けてきましたが、針の数など一回も数えたことはありません。
「この世界の唯一、万能の真理は数にある」と唱えたギリシャの哲学者ピタゴラスさんには申し訳ないのですが、「無我無心」の心境です。患者さんの心臓の形や血管の形状など一人一人全部違うのですから。
血管を縫い付けるとき、心臓の冠動脈側にスリットを入れ、それが吻合口となるのですが、「吻合口の長さはどれぐらいにしたらいいのですか」などとも尋ねられます。
これまた「その都度、フィーリングで決めます」と正直に答えると「なんだこいつ、いい加減に手術しているのか」と思われてしまうので、「実は、黄金分割なんです!」ともったいぶって答えます。
「縫い付ける冠動脈の直径と、縫い付けるために血管の天井を縦に切り裂く長さは、(1+√5)/2が最適です!」