(51)それ私のセーターでしょ? 少し笑っているように見えた

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 ただ、劇的な回復があったからといって、すべてが元通りになるわけではない。日によって調子には波があり、今もすぐに次の選択を迫られる状況に変わりはない。けれど、以前のように無表情で沈黙を貫く姿を見て「もう何も感じていないのだろう」と思っていた時期を思うと、母はまるで別人のようだった。

 ある日、私が母のセーターを着て面会に行ったところ、「それ私のセーターでしょ?」と言われた。ばれたか、と私は笑った。母も少しだけ笑っているように見えた。

 母の中にはまだ、この世界への関心があり、意志があり、感情があった。ただ、それを表現するための機能が衰えていただけだったのだと気づかされた。

 専門職による訓練の積み重ねが確実にQOLを押し上げた。誰にでも当てはまることではないと思うが、ギリギリの選択を迫られた時から、少しだけでも猶予を与えられたことに感謝している。きっと母自身も。 (つづく)

▽如月サラ エッセイスト。東京で猫5匹と暮らす。認知症の熊本の母親を遠距離介護中。著書に父親の孤独死の顛末をつづった「父がひとりで死んでいた」。

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