(53)慣れ親しんだ電話番号の消滅…どうしようもなく泣けてきた
木に咲く花が好きだった母が手入れしていた鉢植えの藤も紫蘭も、庭の水仙も、皇帝ダリアも、すべて枯れ絶えていた。
父が亡くなり無人の実家に通い始めた頃、庭にはのら猫が2匹いた。いつも寄り添うように一緒にいたのに、いつからか1匹だけになっていた。片方は、もうおそらくこの世にいないのだろう。家も、人も、動物も、枯れ絶える。そして、いつかは私自身も、だ。
私は長くためらってきた固定電話を解約することにした。もう、この家で電話を受ける者はいないのだから。
45年間親しんだ「実家の電話番号」は、これで消滅した。もう大丈夫だろうと決心して解約を申し出たのだけれど、いざ手続きが終わったと連絡を受けたら、どうしようもなく泣けてきた。
せめて天気の良い日で本当によかったと私は考えていた。 (つづく)
▽如月サラ エッセイスト。東京で猫5匹と暮らす。認知症の熊本の母親を遠距離介護中。著書に父親の孤独死の顛末をつづった「父がひとりで死んでいた」。



















