(41)「お父さん、死んでしまったよ」入所の日、母にようやく伝えた
熊本に大雨・洪水警報が出されていた日、私は母を病院から迎え出し、入所予定の施設へと送る日を迎えた。
すでに両親の車をどちらも処分していたため、施設長が迎えの車を厚意で出してくれることになった。病院までは車で30分以上かかる。私が実家にいる頃にも来たことのない、なじみのないエリアなので、もっと遠くまで来たように感じてとても心細かった。
コロナ禍で県外からの訪問者である私は、建物の中へ入ることが許されず、外で待機した。小さくなった母がゆっくりと、よろけるように歩いてくるのが見えた。
施設へ向かう前に実家に立ち寄ることを施設長が提案してくれた。1年近い入院生活を終えて初めて戻る自宅。母がもっとも長く過ごしていたリビングへ手を引いて連れていった。一息つき、このタイミングで父の死を伝えた。
「お父さん、お正月明けに死んでしまったよ」
それまで無言で能面のように表情の変わらなかった母は、一瞬絶句したように見えた。