(8)法制度のはざまに落ちた患者…弁護士事務所に置き去り

公開日: 更新日:

精神科病院の入院患者は病院を住所とするケースも少なくない

 今年3月、東京地裁の法廷で院長は、女性が以前住んでいた自治体3つのうち、どの自治体が女性を引き受けるかで調整に時間がかかったと説明。退院請求があったころ、地域移行事業所と契約し、11月には支援が動き出すところだったのに、退院を求めてきたので、「2カ月かけた退院準備を水の泡にするつもりか」と不信感を抱いたという。

 院長は、「精神保健福祉法を読むと選択肢は3つで、退院請求取り下げ、72時間以内に医療保護(強制)入院に変更、72時間以内に退院のいずれか」として、「今退院すると居住先が決まっていないので困るのでは」と女性に取り下げを勧めたが、「弁護士がそれが最善というので任せる」と繰り返したという。

 審査会に事情を説明したところ、「居住先がないから入院という社会的入院は妥当ではない。退院させるしかない」といわれ院長は退院を決定した。女性が「弁護士事務所に行きたい」と希望したため、弁護士にバトンタッチするしかないと考え、送り届けたと述べた。

 今年4月の地裁判決は、精神保健福祉法21条に定める「任意入院者の退院申出」について、「即時退院の申出」と、「退院後の環境が整ったことを前提とした申出」の2種類があるとしたうえで、院長が今回の退院請求を即時退院と認識したことは無理からぬ面があるとして、弁護士側の請求を棄却した。

 弁護士側は4月控訴。理由書では、当日の宿も決まっていない患者を弁護士事務所に事前の協議もなく連れて来ることは社会通念上、非常識であることは明らか。調整を早くしてもらおうと退院請求したのに、弁護士らに確認すべきところを怠り、誤解したまま調整未了で退院させて置き去りにしたことは、精神保健指定医として極めて重大な過失があると主張している。

 精神科病院の入院患者は、病院を住所とするケースも少なくなく、退院後の住居が決まっていないと路頭に迷ってしまうこともある。

(和田明美/ジャーナリスト)

  ◇  ◇  ◇

▼精神保健福祉法21条

 精神科病院の管理者は自ら入院した精神障害者(任意入院者)から退院の申し出があった場合、退院させなければならない。この場合、精神保健指定医による診察で医療および保護のため入院を継続する必要があると認めたときは72時間に限り、退院させないことができる──と定めている。

【連載】実録 クスリ漬け収容 精神医療後進国にっぽん

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    木村拓哉の千葉支援に重なる“解散から10年”SMAPの絆 義援金2000万円を届けた行動力

  2. 2

    (6)甲斐拓也が松井巨人に“切られた”本当の理由…成績低迷に加え「福岡帰省連発」でもヒンシュク買っていた

  3. 3

    申ジエを見ていて苛立った…国内ツアーは「スロープレー」の撲滅をそろそろ啓蒙するべきだ

  4. 4

    (1)松井秀喜監督で“淘汰される選手” 「確率が高いものを大切に。守備走塁は100%」の真意

  5. 5

    テニス部キャプテンを務めた“スポーツマン”日村勇紀と“お嬢様”神田愛花が歩んだキャリア

  1. 6

    (5)松井監督が自覚する「優柔不断」…高橋由伸ヘッドコーチも“同類”という懸念

  2. 7

    「VIVANTに出てるんだから口閉じろ」…キムラ緑子の高市首相批判に噛みつくSNSの異常と低レベル

  3. 8

    中日一軍打撃コーチ就任の所信表明 キャンプで真っ先に「変えたいこと」がある

  4. 9

    阪神・藤川監督に「裸の王様」の懸念 選手&スタッフを驚愕させた「コーチいびり」

  5. 10

    米球界挑戦の横浜・織田翔希は間違いなく巨人入りに翻意する 松井監督誕生で見えた“説得の筋書き”