自説との対立から車で引きずった85歳が逮捕、史跡めぐりで相次ぐ迷惑行為…なぜ歴史愛好家はガイドを怒鳴るのか
10月25日、静岡県富士宮市にある人穴富士講遺跡でボランティアガイドを務めていた男性(81歳)を車で数十メートル引きずり、転倒させてケガをさせたとして、85歳の男が逮捕された。ガイドは頭を打って出血するなどのケガを負ったが、命に別状はないという。
人穴富士講遺跡は、世界文化遺産にも登録されている富士山信仰を物語る史跡だ。逮捕された男は、ガイドの説明が「自分の考えと違う」ことに腹を立て、口論になったという。実は、こうした史跡や文化財のガイドと観光客が口論になるケースが相次いでいて、問題になっているのだ。いったいどんな場面でトラブルになりやすいのか。
■温泉地の説明に、「空海がこんな場所にまで来るはずがない!」
筆者は重要文化財や近代建築関係の書籍を執筆したり、編集に携わったりしていることもあって、旅行会社に頼まれて史跡のガイドを引き受けることがたまにある。
ある時、旅行会社の担当者に「なぜ、学者でもない私に仕事を依頼してくれるのですか」と聞いたところ、「山内さんは面倒なお客様の扱いが得意そうなので……」と本音を言われてしまった。
この担当者曰く、ガイドの説明に納得できず、持論を展開する人は非常に多いそうである。特に高齢者の歴史愛好家の男性、現役時代に学校の教師や公務員などの地位に就いていた人に多く見られるという。
あるバスツアーでガイドが「ここは空海が発見したと言われる温泉です」などと説明をしたところ、「空海がこんな場所にまで来るはずがない!」といきなり怒り出した男性もいたそうだ。なんと、男性はバスを降りた後もガイドに高圧的な態度で訂正を迫ったため、そのガイドは精神的にショックを受け、退職に追い込まれたという。
■歴史関係の書籍にもクレーム。中でも厄介なのは「城」
担当者によると、トラブルが起こりやすい史跡は「城」がダントツで、続いて「古墳」や「寺院・神社」などが続く。確かに、私はこれまで「城」に関する記事を数多く執筆してきたし、ムック本の制作などにも関わってきたが、クレームの多さがダントツであった。
原稿の中で、筆者の見解を述べているわけではない。内容に万全を期すべく、必ず大学教授や歴史研究家などの監修者を立てて、著書や論文を参考に執筆している。だが、困ったことに、監修者にアンチがいるケースも多いのだ。
本の記述に関し、「自分はこう思わない」と長文の手紙を送ってきたり、「自分を取材して訂正記事を出せ」と抗議されたこともある(もちろん取材しなかったが)。こちらの都合を考えず、「何月何日までに御社の見解を送るように」と要求されたこともあったし、「内容が間違っている本を買わされた」という理由で返金を求められたことまであった。
■学術的な視点を無視して「邪馬台国は埼玉県越谷市にありました!」
とにかく、歴史はアマチュア研究者でもいくらでも好きなことが言えてしまうため、総じてモメやすい。中でも厄介なテーマの一つが「邪馬台国」である。所在地に関しては古くから九州説と畿内説があり、その両方の立場から議論が絶えない。
だが、学術的な視点を無視して、「邪馬台国は埼玉県越谷市にありました!」などと自説を唱えるのも自由である。実際、「わが町こそが邪馬台国だ!」と自説を提唱しているアマチュア研究家もいる。
そういった自説を押し付けられる側は、たまったものではない。ある有名な古墳のガイドがこのように嘆く。
「『古墳を宮内庁が管理しているのはおかしい!』『発掘調査を認めるべきだ』のような現地で解決不可能なクレームから、陰謀論めいた自説まで延々と説明されることもあります。はっきり言って、お手上げですよ。
自説を唱えるのは自由ですが、その説を押し付けてきたり、ガイドを長時間拘束することは明らかにカスハラです」

















