自転車・中村妃智は病で体重17kg増…待っていた過酷な生活

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「泣きながらロープをよじ登りました」

「ロープを登る練習は、部内で私だけができませんでした。レスリング部の友達から登るコツを教わって、居残り練習もして……。スネでロープを挟みながら、そこがすれて血みどろになっても、泣きながら必死で(ロープに)しがみつきました。それでもうまくいかない。私がいることで部の足を引っ張ってしまうことがつらくてメンタルはボロボロ。練習に行くのが本当に苦しかったです」

 心身共に限界を迎えた1年の冬、ついに病院の門を叩いた。下された診断結果は甲状腺の異常から体調不良を引き起こす「バセドウ病」。階段の上り下りも禁止された絶対安静の生活を命じられ、投薬が始まった。

「病名が分かって、すごくホッとしました。不調には理由があったんだって。半年後に、競技復帰した頃には体重が増えちゃって(笑い)。入学時は53キロだったのが、2年の春ごろには70キロです。恥ずかしいですね」

 減量に励み、再びサドルにまたがると国内大会で数々のメダルを獲得。4年時は通年で行われるUCIトラックワールドカップの日本代表の座を掴み取った。卒業後は1年間、同大の研究室に所属し、2016年から現職の日本写真判定㈱へ就職

 現在に至るまで日本代表として世界を転戦し、今年6月、梶原悠未(23)と共に1チーム2人で行う種目「マディソン」の五輪切符を手に入れた。

■仏遠征では山火事の脇を爆走

 来夏に迫る東京五輪に向け調整を重ねる中村は、「昨年のフランス遠征で、さらにメンタルが強化された」という。

「スマホをなくしたり、骨折して痛みに耐えながら現地語で救急隊員とやりとりをしたり。熱波で40度を超える熱帯夜を、クーラーのないホテルで過ごしたり。この夜はシャワーを浴びてびしょ濡れのまま、濡れたタオルを体に巻いてしのぎましたよ(笑い)。熱波で発生した山火事の脇をBMXで走り抜けたのも、この遠征です。ハプニングを乗り越えて精神的に成長できたと思います」

 あらゆる困難を乗り越えて迎える来年8月、東京五輪の大舞台でどのような走りを見せてくれるのか。

▽なかむら・きさと 1993年1月7日、千葉県浦安市生まれ。千葉経済大付属高から競技を始める。日体大を卒業後は同大の研究室に1年間在籍した後、日本写真判定㈱に就職。千葉競輪場で自転車の魅力を伝える活動にも参加している。

【連載】東京五輪目指す 女子アスリートの履歴書

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