元大関貴景勝・湊川親方〈4〉“自主性”という言葉に異議がある。強制の先にしかそれはない
限界は一人では超えられない
吉田 ステージが変わって師匠として弟子を育てていく立場になりましたが、それでも同じように「無理だ」とか、いろいろと言われることもあると思うんですよ。
湊川 そうですね。確かに僕もまだ30歳と未熟ですし、同じ世代の力士たちが現役で頑張っている中で、師匠としてやらせていただいてる。だからまあ、師匠というよりは兄貴のような立場で伝えるようにしています。もちろん、厳しいことは言いますけど、楽しい時は楽しく。弟子の顔つきをよく見て接するように心がけています。若いからどうなんだ、って言われることもあると思いますが、今は弟子たちが頑張ってくれればそれでいい。関取に上げたいという気持ちが一番ですね。
吉田 全員を関取に。
湊川 もちろん、彼らには目標を聞きます。関取になりたい? じゃあ関取になるために一番いいことをやろう、と。極端に言えば、序二段、序ノ口でもいいのであれば、僕はそれに沿った指導をするだけです。そんな子はいないと思いますが。
吉田 師匠人生はまだ始まったばかりですが、どんな部屋にしていきたいですか?
湊川 僕らは「自分だけなら、これぐらいしかできなかっただろうな」というところを、先輩方に引っ張り上げてもらって限界を超えた。その先輩たちの顔がずっと頭に残っているんです。そう考えると、自分は自主性って言葉があまり好きじゃないんです。自主性で限界を超えられるのは、ごく一部の天才だけだと思う。限界とは自分で「もう無理」と思うラインだから、1人では超えられない。
吉田 まさにおっしゃる通りですね。天才でなければ……。
湊川 できない。最近は自主性という言葉が良い意味として流行していますが、僕は強制の先にしか自主性はないと思っている。自分自身、強制で限界を超えた記憶があります。もう立てない……もうあと1、2本押せない……そう思っていた時に、先輩方から「頑張れ!」と指導いただいた。僕はあれのおかげで強くなれたと思っています。もし、あの時に「そこで終わっていいよ」と言われていたら、限界は超えられなかったでしょうね。
■一番に全てを懸ける気迫
吉田 そう言われても「いやいや、もっとやらせてください」とはなかなか言えませんよね。
湊川 だから僕は稽古中は結構厳しく言います。自主性のためにも、まずは強制。本場所でウチの部屋の力士を見て、「この部屋の力士はみんな、人生懸けてるな」と思ってほしい。「今日この一番に全てを懸けてるな」という気迫を持った力士を育てたい。勝ち負けはその次。そんな力士の集団をつくりたい。
吉田 まさに貴景勝がそうでしたからね。
湊川 僕は20歳くらいの時は、「明日膝ぶっ壊れて引退しても、しゃあねえか」って気持ちで相撲を取っていましたから。
吉田 大関昇進の口上では「武士道精神を重んじ……」と話されていましたね。
湊川 そこも本当に大事だと思う。挨拶など礼儀的な部分もそうだし、受けた恩を倍にして返す、という考えも大事。今はそういうのがうっとうしがられる時代ですが、僕はそれらの重要性を先輩方から教わった。そうしたものも、弟子たちに伝えていきたいですね。=つづく
(構成=日刊ゲンダイ編集部)
▽湊川高信(みなとがわ・たかのぶ)本名は佐藤貴信。1996年、兵庫県芦屋市出身。2014年、貴乃花部屋に入門し、同年9月場所が初土俵。16年新十両、17年新入幕。18年11月場所で初優勝を果たし、19年に大関昇進。24年9月場所中に引退。現役通算60場所で441勝254敗116休。幕内最高優勝4回、三賞7回、金星3個。最高位は大関。



















