「東京路地裏横丁」山口昌弘著

公開日: 更新日:

 その他、背後にそびえる高層ビルと横丁の風景がミスマッチな三軒茶屋の「三角地帯周辺」や、一角に祭られた社がよその路地とは異なる整然とした空気を醸し出す銀座の「路地裏小路」、そして酒飲みの聖地・立石の「呑んべ横丁」など、都内14カ所の路地裏横丁を約200点ものモノクロ写真で巡る。

 写真に説明は一切なく、「階段の狭い廃ビル立ち並ぶ路地で昔のあなたと出逢ふ」「まひるまの袋小路にひとすぢの光が射して誰も気づかぬ」など、ページの合間に添えられた菊池裕氏の短歌に触発され、それぞれの写真に封じ込められたドラマが動きだす。読者はただ写真の奥まで広がる路地裏横丁の中に自らの身を遊ばせ、その居心地を楽しめばよい。

 吉祥寺の「ハーモニカ横丁」のように、多くの路地裏横丁は戦後、焼け野原だった場所に闇市や屋台が重なるように集まってできた。戦後の何もない時代に人々の憩いの場所として生まれた路地裏横丁が、時代を経て、今も庶民の一日の疲れを癒やすかけがえのない場所になっている。しかし、徐々にその姿を消しているのも事実。この写真集が在りし日の路地裏横丁の風景を記録した貴重な史料にならないことを祈る。(CCCメディアハウス1800円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  2. 2

    35年前の大阪花博の巨大な塔&中国庭園は廃墟同然…「鶴見緑地」を歩いて考えたレガシーのあり方

  3. 3

    高市内閣の閣僚にスキャンダル連鎖の予兆…支持率絶好調ロケットスタートも不穏な空気

  4. 4

    葵わかなが卒業した日本女子体育大付属二階堂高校の凄さ 3人も“朝ドラヒロイン”を輩出

  5. 5

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  1. 6

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  2. 7

    隠し子の養育費をケチって訴えられたドミニカ産の大物種馬

  3. 8

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  4. 9

    高市早苗「飲みィのやりィのやりまくり…」 自伝でブチまけていた“肉食”の衝撃!

  5. 10

    維新・藤田共同代表にも「政治とカネ」問題が直撃! 公設秘書への公金2000万円還流疑惑