「写真家ソール・ライター」都市風景写真で20年後に再評価

公開日: 更新日:

 ファッションやコマーシャルの写真で一世を風靡した写真家が時代の波に取り残されて、やがて人知れずしりぞいてゆく。よくある話だが、そんな写真家が人知れず撮りためていた作品がふとしたきっかけで認められ、再び世に登場するというのは、それほどめったにある話ではない。

 現在、都内で公開中の「写真家ソール・ライター」は、まさにこうして再評価されたアメリカの写真家をめぐるドキュメンタリーだ。

 ソール・ライターは戦後の前衛美術全盛時代にニューヨークで美術を学んだが、進んだのは商業写真の道。「ヴォーグ」や「ハーパーズ・バザー」で売れっ子のひとりになったが、60代になった80年代には一線をひいていた。ところが20年後、彼が個人的に撮っていた欧米の都市風景写真がドイツの写真編集者の目にとまり、本業だった商業写真とは別の作品群でたちまち再評価されたのである。映画はその「新たな」一面を丁寧に紹介するが、カラーフィルターを精妙に駆使して撮られた写真はデジタル時代の現代にマッチするのがよくわかる。

 文学でいえば中間小説に当たるその世俗的叙情性はロルフ・ギュンター・レンナー著「エドワード・ホッパー」(タッシェン・ジャパン 2000円)に見る画家エドワード・ホッパーの世界にも通じるものだろう。ユダヤ教の司祭の息子に生まれたというライターの生涯も面白い。

〈生井英考〉

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ヤクルト村上宗隆と巨人岡本和真 メジャーはどちらを高く評価する? 識者、米スカウトが占う「リアルな数字」

  2. 2

    大山悠輔が“巨人を蹴った”本当の理由…東京で新居探し説、阪神に抱くトラウマ、条件格差があっても残留のまさか

  3. 3

    中山美穂さんの死を悼む声続々…ワインをこよなく愛し培われた“酒人脈” 隣席パーティーに“飛び入り参加”も

  4. 4

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  5. 5

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  1. 6

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  2. 7

    豊作だった秋ドラマ!「続編」を期待したい6作 「ザ・トラベルナース」はドクターXに続く看板になる

  3. 8

    巨人・岡本和真の意中は名門ヤンキース…来オフのメジャー挑戦へ「1年残留代」込みの年俸大幅増

  4. 9

    悠仁さまは東大農学部第1次選考合格者の中にいるのか? 筑波大を受験した様子は確認されず…

  5. 10

    中山美穂さんが「愛し愛された」理由…和田アキ子、田原俊彦、芸能リポーターら数々証言