古代の日本を訪ねる本特集

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「発掘された日本列島2017 新発見考古速報」文化庁編

 日本の歴史といえば江戸時代や戦国時代が花形だが、近年では縄文時代や弥生時代にも注目が集まっている。全国での発掘調査が進み、新たな歴史の解明が進みつつあるためだ。今回は古代の日本の最新事情が分かる4冊をご紹介。この夏休み、大人の自由研究として手にとってはいかがか。

 古代の日本人はどのような暮らしを営んでいたのか。その謎を探るべく全国で行われる発掘調査は毎年8000件にものぼり、遺跡や出土品なども膨大な数となっている。文化庁では平成7年から、とくに注目される発掘の成果を展示して全国を巡回する「発掘された日本列島展」を開催している。

 文化庁編「発掘された日本列島2017 新発見考古速報」(共同通信社 1800円+税)は本年度版の公式図録であり、27の遺跡がオールカラーで紹介。

 関東最大かつ最古の遺跡として知られるのは、足柄平野の南東部、酒匂川下流域左岸に立地する中里遺跡だ。昭和27年に弥生時代中期の土器が発見されたことに始まり、現在は関東では類を見ない大規模集落であったことが判明している。

 その広さは、居住域と墓域を合わせておよそ5万平方メートルに及び、とくに居住域には竪穴住居102棟、掘立柱建物73棟、井戸6基、人間が土を掘りくぼめてできたと考えられる土坑が880基と、おびただしい数の遺構が確認されている。

 中でも、この遺跡には畿内地域を中心に見つかっている掘立柱建物が数多いこと、東日本の遺跡ではあまり例のない井戸が発見されていること、摂津地域で多く見られる土器が出土していること、さらに墓域では伊勢湾沿岸地域と類似した方形周溝墓が確認されたことが注目される。

 つまり、関東の西の玄関口にあたる中里集落形成の背景には、遠く離れた近畿や東海方面の人々が関係していたことが推測されるわけだ。彼らと在地の人々がはるか昔の弥生時代に交流し、文化を掛け合わせて巨大な集落を形成した。その光景を想像するだけでワクワクしてくるではないか。

 今回の展示から企画された、「発掘された水中遺跡」も掲載。周囲を海に囲まれた島国・日本では、海を舞台とした数多くの歴史事象が繰り広げられてきたが、そのことを如実に語るのが水中遺跡だ。

 例えば、長崎県伊万里湾の鷹島海底遺跡では、中国の元軍が使用した武器、「てつはう(鉄砲)」が見つかっている。ここは、鎌倉時代に蒙古襲来があった地域だ。X線CT調査では、陶製で球形のてつはうの中に、火薬と共に鉄片や陶器片が詰められていることが分かり、極めて殺傷能力が高かったことが判明している。これまで絵巻物や文献から想像するしかなかった、蒙古襲来の実態解明につながりそうだ。

 歴史と文化の多様性を表す遺跡の数々。日本の古代を知る大きな手がかりだ。

「縄文とケルト」松木武彦著

 縄文時代(新石器時代)の日本にある遺跡と、イギリスの新石器時代の遺跡の形やデザインが、驚くほどよく似ているのはなぜか、という疑問に比較考古学の視点から迫った意欲作である。

 著者の仮説はこう。 

 氷河期終了後の温暖化の時代に、日本とイギリスには、共に、豊かな資源に頼って定住する人々が現れた。そして、地球規模の寒冷化が襲ったとき、大陸の中央部の平原にあるメソポタミアや中国黄河流域には、農業の集約化で食料を確保した、いわゆる四大「文明」が出現した。

 一方、日本とイギリスには、集団のきずなを強化し、資源をもたらす太陽や季節の順調なめぐりに精神的な働きかけを行う「非文明」の社会が発展したが、その後、それぞれのユーラシア大陸との距離の差が運命を変えていった――。

 格好のイギリス古代遺跡巡りガイドでもある。(筑摩書房 820円+税)

「古代の日本がわかる事典」北川隆三郎著

 社会科で習った弥生時代の始まりは紀元前4~5世紀ごろだが、発掘調査が進んだことで、現在では紀元前1000年ごろとする説が主流になっていることをご存じだろうか。

 日本の古代史といえば従来は近畿地方が中心というイメージ。ところが、北海道から沖縄まで発掘調査が進んだ結果、いずれの地域からも古代遺跡が発掘されている。本州最北端に位置する陸奥湾を望む三内丸山遺跡では、縄文初期から中期に、高さ20メートルを超える超大型建物があったことも確認されているのだ。

 東日本大震災に伴う住宅移転事業でも多くの縄文遺跡が発掘され、縄文時代は東日本が先進地帯だった可能性も出てきている。最新の調査結果から古代の魅力を掘り起こす本書。歴史を学び直すにはもってこいだ。(日本実業出版社 1500円+税)

「土偶界へようこそ」譽田亜紀子著

 縄文時代に土で作られた人型の焼き物、土偶。本書では、地域性や時代性を色濃く表す70体の土偶を掲載している。

 山形県の西ノ前遺跡で発掘されたのは、「縄文の女神」と名付けられた土偶。顔の部分には目鼻が一切表現されていないが、注目はそのボディーだ。

 突き出たお尻にどっしりとした角柱状の脚が特徴で、横から見ると、腰からお尻にかけての反りが絶妙。

 当時の人々にとって女性の魅力は顔ではなく、どっしりと安産型の下半身であったことを想像させる。

 縄を押し付けた美しい模様が全身を縁取る大型板状土偶は、青森県の三内丸山遺跡で発掘された。よく見るとハイレグ気味のパンツをはいているようなデザインにも気づくことができる。

“日本最古のフィギュア”の写真集だ。(山川出版社 1600円+税)


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