裁判所から幕末史まで “正体を知る本”特集

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「坂本龍馬の正体」加来耕三著

 インターネットの普及により情報があふれる現代。しかし、だからこそ真実にたどり着きにくく、惑わされることが増えている。今回は、幕末の歴史から安倍政権に至るまで、その真の姿を追究した「正体本」をご紹介。



 幕末の英雄・坂本龍馬。しかし、彼が歴史の表舞台に立ったのは33年の生涯の中のわずか5年間。つまり、28歳までの足取りは、多くが謎のままなのだ。

 龍馬は10代まで寝小便の癖が治らず、「坂本の寝小便ったれ」とからかわれ、泣き虫であり、見どころがないと言われて寺子屋を1日で辞めさせられた、という話を知る人も多いだろう。しかし、これらはすべて明治16年に高知県で刊行された「土佐新聞」の連載読み物「天下無双人傑 海南第一伝奇 汗血千里駒」(坂崎紫瀾著)が出典であり、史実としての記録は皆無。大器晩成を強調するための創作の域を出ないという。

 さらに、龍馬が修めたとされる北辰一刀流についても、入門と修行を示す記録はない。その一方で、西洋流砲術の大家である佐久間象山に入門した記録は残されている。寺田屋襲撃の際に拳銃を撃ち、近江屋で暗殺された際も剣を抜いた形跡がないのは、このためかもしれない。

 龍馬が没して今年で150年。その真実を描く文庫書き下ろし。

 (講談社 950円+税)

「薩長史観の正体」武田鏡村著

 来年の大河ドラマは「西郷どん」に決定しているが、よく知られている幕末の出来事は、明治政府がつくり上げた「薩長史観」によるもの。薩摩と長州が権力を握るために行った、策謀や殺戮を隠蔽するためのでっち上げであると本書は切り捨てる。

 薩長史観では、無策の幕府を倒さなければ日本は植民地にされていたとなっている。しかし当時、イギリスは清国の植民地化に手いっぱい。アメリカは南北戦争に突入し、フランスは北ドイツ連邦との緊張状態が続いていた。つまり、各国とも日本を攻める余力はなく、そもそも日本は植民地としてさほど魅力的ではなかった。

 さらに、幕府は諸外国に対し日本の国内紛争に対する不干渉を申し入れており、各国はこれに従い局外中立を宣言していた。ところが薩長は諸外国に対し、幕府に加担することのみを禁ずる通達を出している。薩長がいかに国際法に疎く、日本国の未来など考えていなかったかの表れだ。

 ねじ曲げられてきた日本の歴史。旧幕府側の名誉のためにも知っておきたい。

 (東洋経済新報社 1500円+税)

「裁判所の正体」瀬木比呂志、清水潔著

「文庫X」として話題になった「殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件」を執筆したジャーナリストと元裁判官による対談形式で、日本の裁判所の問題点を浮き彫りにしていく。

 最高裁判所といえばもっとも公平な判決を下す場所だと思ってしまうが、とりわけ行政訴訟に関しては国寄りの判決しか出ないというから驚かされる。日本の最高裁では、最高裁判所調査官というエリートたちが裁判のための資料を集め、その資料から報告書やリポートを書いて提出し、判決についても下書きをする場合がある。

 つまり、調査官が最高裁裁判の土台をつくっており、これを調査官の上席や首席がチェックするため、極めて“色の付いた”判決が下りやすい。あらためて冤罪があぶり出されることも極めて少ないのが現実なのだという。

 ほかにも、裁判官の天下りの実態や、最高裁と時の政権の関係、法廷に遺影を持ち込めない理由なども明らかにされていく。読後は司法への信頼が崩壊するとともに、監視の目を強める必要性を痛感するはずだ。

 (新潮社 1500円+税)

「安倍官邸『権力』の正体」 大下英治著

 安倍政権を支えるキーパーソンたちに直撃取材を行い「安倍総理には、人望があり、悪党の雰囲気を持たず、情がないようで情がある」と一貫して安倍政権を褒め称える本書。幾多の難題を抱えながらも安倍政権が盤石なのは、総理を支える官邸スタッフの結束力が強いためだとも述べている。

 しかし同時に、安倍政権を支える人物たちがどのような思惑で集まり、どう関わっているかが詳細につづられ、官邸の正体が透けて見えてくる点が興味深い。たとえば、官僚主導だった約600人の幹部人事を、首相や官房長官が加わる任免協議を経なければ決められなくした「内閣人事局」の新設。「省益ではなく国益のための“日の丸公務員”をつくるため」というもっともらしい理由が叫ばれているが、内閣人事局のトップは、あの加計学園グループの千葉科学大学客員教授も務めていた萩生田光一氏というから、うさんくさい。

 巻頭には、憲法改正について熱く語る安倍首相自身のスペシャルインタビューも掲載。貴重な資料となりそうだ。

 (KADOKAWA 800円+税)

「『精神病』の正体」大塚明彦著

 医学の進歩でさまざまな疾患の治療法が確立されているが、いまだその仕組みすら明らかになっていないのが各種の精神病だ。しかし、臨床経験50年のベテラン精神科医である著者は、精神病の正体とは「外胚葉発達のアンバランス」であると述べている。

 精子と卵子の受精後2~3週間経つと、内胚葉・中胚葉・外胚葉という3つの部位に分かれ、それぞれが人間の体の各器官へと分化していく。外胚葉からは目や耳といった感覚器が形成されるが、実は脳や脊髄など中枢神経の細胞も外胚葉から作られる。

 この外胚葉の発達に障害があると、脳内の情報伝達回路に偏りが生まれ、神経細胞で作られる神経伝達物質のバランスが崩れ、感覚過敏も生み出す。結果、各種の精神病症状が表れると本書は推測している。

 実際、統合失調症など重い精神疾患の患者に対し、発達障害の多動や不注意を改善する抗ADHD薬を処方したところ、劇的に症状が改善されているという。仕組みの解明で、精神疾患を薬ですぐに治せる時代がやってくるかもしれない。

 (幻冬舎 1400円+税)

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