書き下ろし時代小説文庫特集

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「提灯奉行」和久田正明著

 いつでもどこでも古き日本にトリップできる時代小説には、世知辛い昨今とは一線を画す、人情や悲恋や忠義があふれている。今回は、時代小説の世界にどっぷり漬かりたい人のための書き下ろし文庫本を5冊ご紹介!

 徳川家斉の正室・寔子の乗った女駕籠が、法要の儀のため芝増上寺に行く途中で突然3人の刺客に襲撃されるところから物語は始まる。警備の者も虚を突かれ、もはやこれまでかと思われた瞬間、正体不明の武士が立ちはだかり、あっという間に3人を斬り伏せた。身分違いの下級武士に命を救われた寔子は、決して男ぶりがいいわけではないその初老の武士に、初めての恋をした。

 そもそも寔子は通称・篤姫とも呼ばれる島津薩摩守重豪の三女で、15歳のときに家斉と政略結婚した身。決してかなわない恋の相手は、普段ならお目通りさえ許されない提灯奉行の白野弁蔵だ。剣の達人でありながら、なぜか表御殿の灯火を差配する提灯奉行の役目を果たしていた弁蔵には、実は隠された別の使命があった……。

「暴れん坊将軍」や「遠山の金さん」など数多くの人気シリーズを手がけた脚本家による、書き下ろし時代小説。寔子と弁蔵の秘めたる恋を軸に、寔子を闇の一族から守り抜くことを自らに課した武士としての弁蔵の生きざまを描いている。(小学館 610円+税)

「忍びの乱蝶」富田祐弘著

 扇の絵を描いて生計を立てる若き娘・乱蝶には、幼いころに父母が強奪の濡れ衣を着せられ、処刑された忘れがたい過去があった。父母も兄も住んでいた屋敷も奪われ、妹の秘草と逃げ延びた乱蝶は、いつか父母をおとしめた真犯人を捜し当てることを誓い、娘盗賊という裏の顔を持つようになる。

 あるとき、豪邸の金品にあった父母の遺品から真犯人にたどり着こうとしていた矢先、忍び込んだ先の主がすでに何者かに殺されている状況に遭遇する。さらに、その直後には世話になっていた商人・藤堂佐久兵衛が、有徳人といわれる禅示坊には近寄らない方がいいという忠告を残して、家族もろとも何者かに殺されてしまう。不審に思った乱蝶は、さっそく周囲を探るのだが……。

「超時空要塞マクロス」や「美少女戦士セーラームーン」などの脚本を手掛け、「信長を騙せ 戦国の娘詐欺師」で時代小説デビューした著者による長編時代小説。復讐を誓った一途な女性主人公が魅力的に描かれている。(祥伝社 600円+税)

「守銭奴」井川香四郎著

 門前仲町のおかげ横丁に居を構える岡っ引きの紋三は、町を騒がせる盗賊の一件で品川宿の半次親分に会いにいった帰り道、高輪で激しい雨にふられた。居酒屋「笹谷」の軒先で雨宿りをしていたところ、女将に声をかけられ、その店で食事をすることに。

 ところが、店の亭主が握った握り寿司が、かつて門前仲町にあった「鮨仙」のシャリの味となぜか似ていた。かつて「鮨仙」は江戸中にその名が響き渡るほどの名店として知られていたが、15年前店主が色恋沙汰で娘をあやめたことをきっかけに店を畳んでしまったという過去があった。紋三は、偶然入った「笹谷」と「鮨仙」の関わりを感じ、何かあるのではないかと「笹谷」に通い始めるのだが……。(「雨宿り」)

「もんなか紋三捕物帳」シリーズ第9弾。「雨宿り」のほか、紋三の鋭い洞察力が光る短編計4編が収録されている。(徳間書店 660円+税)

「裏走りの夜」喜安幸夫著

 主人公は、町の木戸の開け閉めや町内の夜回りの役目を担う木戸番を務める杢之助。表向きはそれだけの役目だったが、実は町の変事を察知し、奉行所に介入される前に自らを表に出すことなく平穏に事をおさめるという重要な役割を担っていた。

 ふだんから町に行きかう人々の言動を注意深く観察している杢之助は、いつしか町人からの信頼を得て、ある日薬問屋の主である徳之助から、大工道具屋・井筒屋の番頭・忠助の縁談の相談を受ける。井筒屋の娘・佳実とその母が忠助を気に入り婿にしたいと忠助に水を向けたところ、普通なら願ってもない話であるにもかかわらず乗ってこない。

 誰か思い人がいるのではないかと推測し、秘密裏に杢之助に忠助の身辺を洗ってほしいというのだ……。

 大江戸木戸番始末シリーズ第6弾。縁談話からスタートした今回は、忠助の知られざる過去を掘り出し、さらには町をあげての人助けへと発展していく。目立たぬように水面下で事を処理する杢之助の美学がなんとも格好いい。(光文社 600円+税)

「闇姫変化」鳥羽亮著

 物語は、老舗呉服店の娘・おあきがお供の元助とともに、不忍池のほとりで何者かに殺されるという場面から始まる。思い人との逢引のため出合い茶屋に出かけた帰り道に、正体不明の者に殺されたというのだ。おあきの父である越野屋の善右衛門は、御助け人の宗八郎に犯人をつきとめて娘と娘の腹の中にいた孫の敵を討ってほしいと願い出る。

 引き受けた宗八郎は仲間の佐久と神谷と共に、事件の真相を探り始める。どうやら、奉公先の旗本・風間家の息子といい仲になったものの、その息子に婿入りの話が持ち上がり、邪魔になって捨てられたのではないかというのだ。手を下したのは、闇姫と呼ばれる女の姿をした色男らしいのだが……。

「剣の道殺人事件」で第36回江戸川乱歩賞を受賞して以来、「はぐれ長屋の用心棒」シリーズ、「剣客旗本奮闘記」シリーズなどで人気の著者による最新作。弱き民を助ける宗八郎の鮮やかな剣法が爽快。(講談社 610円+税)

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