「骨の髄」甲斐啓二郎著

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 何の前知識もなくページを開くと、小雪の舞う寒そうな町はずれの広場を男たちが走っている。男たちの向かう先には、群衆がいるようだ。彼らの容姿からどこかの異国だと分かるが、どこの国かは分からない。

 次のページも、そして次のページにも、はやる心を抑え、どこかを目指して歩いたり走る男たちが写っている。寒空の下、ある者はためらうことなく川に入り、濡れることも構わず、流れの中を歩いている。

 やがて男たちは一団の塊となり、その群れの中心に少しでも近づきたいのか、街路樹を伝って迫る男たちもいる。どのページにも女性たちの姿はない。

 どんよりとした灰色の町に、男たちの熱気が湯気となって立ち上る。雪が解けて地面がぬかるみになろうが、夜が迫ろうが、男たちは気がついていないかのように熱中している――。

 作品には手掛かりとなるキャプションもなく、章の終わりまで男たちがなぜ走っているのか分からない。しかし、その必死さと熱気、そして緊張感だけは作品からひしひしと伝わってくる。

 実は、これはイングランドのアッシュボーンという町で350年以上も前から続くトラディショナルなフットボール「Shrovetide Football」を撮影したもの。

 町の中心を流れるヘンモア川を境に2チームに分かれ、町全体をフィールドに2日間にわたってゲームが行われる。ルールは教会に入らない、人を殺さない、の2つだけで何をやってもいい非常に激しい試合だという。

 本書は、「Shrove Tuesday シュローブ・チューズデー 告解の火曜日」とタイトルされたこの冒頭の章をはじめ、同祭と驚くほど同じ内容ながら使われるボールの重さが8倍の16キロもあるという東ヨーロッパのジョージア・シュフティ村の「Lelo」や、ボリビアの中央部マチャでインカ帝国時代よりも前から行われているという「Tinku」というケンカ祭り、長野県野沢温泉村の道祖神祭りのクライマックスを飾る「火付け」など、国内外の「格闘する祭り」を撮影した写真集。

 書名にもなっている「骨の髄」とタイトルされた章では、秋田県美郷町の「六郷のカマクラ」という祭りの「竹打ち」という行事を追う。

 江戸時代の初期、酒蔵の若い衆が竹の先端に「天筆」と呼ばれる願い事を書いた紙をつけ「松鳰」(正月飾りを集めて焼くご神火)の火を叩いて騒いでいたところ、それぞれの竹がぶつかり合い、それがエスカレートしていったのが始まりだという。

 ヘルメットをかぶった男たちが南北に分かれ、長い青竹をぶつけ合うさまは壮観。竹を武器にした戦場のようだ。

 どの祭りも、原初の時代に戻ったかのように肉体と肉体をぶつけ合い、そのひとときに己のすべてを燃焼させる。スポーツの起源を見るような男たちの戦いぶりが、心の片隅に火をともしてくれる。

(新宿書房 5300円+税)

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