「黄昏のために」北方謙三著

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「黄昏のために」北方謙三著

 画廊の主人、吉野雄一がやってきた。私は「一応、三点だよ」と絵を見せた。吉野が「あの人形の絵、いいね。人形が生きているよ」と言うので、「一応と言ったのは、あれを売るかどうか迷っていたからさ」と答えたが、「いいさ、持っていけよ」と結局は売った。自分は命がないものをなぜ命がないように描けないのか……。

 別の日、ビニールのゴミ袋を持って家を出て、ゴミ収集所に捨てると、「行かないでよ」と声がする。「なにか言ったのか」と声をかけたが、ビニール袋には人形が収まっているだけだ。居酒屋で友人に会うと、ある画家の絵を「観に行ってみないか」と誘われ、タクシーで向かう。そこでライトアップされていたのは、人形の絵だった。(「声」)

「無機」を描こうとする画家を描く18編の短編。 (文藝春秋 1870円)

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