「スプリングアナザーシーズン」恩田陸著

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「スプリングアナザーシーズン」恩田陸著

 本作は、バレエを題材にした長編「スプリング」の世界を、別の角度から掘り下げたスピンオフ的作品。物語の中心となるのは、天才的な才能をもつバレエダンサー・HAL(ハル)と、彼を取り巻く人々の視点だ。「スプリング」本編では描き切れなかった舞台裏や、その後の時間、そして「彼を見つめる側」の感情が、繊細な筆致で語られていく。

 アメリカ人のヴァネッサは、入団したものの周囲になじめずにいた。アメリカとヨーロッパでは踊りのスタイルも違う。周りから「コーラスライン」「ミュージカル」と揶揄され、耐えがたくなっていたときに、HALはヴァネッサの変化に気付き、言った。「俺、できてないことは俺のせいだと思ってる。自分で直すしかない、プロだもん」。ヴァネッサは自分が認められないのは先生のせいだと思っていたことに気づく。やがてHALの振り付けで踊った「アグニ」のソロはヴァネッサの最初の当たり役となった。(「私の青空」)

 ほかにもHALの恋人フランツ、日本人ダンサーのJUN、幼い頃HALと出会いショックを受けた美潮など、男女問わずHALの才能に魅了され、時に翻弄された者たちの心の揺れが物語の核として描かれる。無垢な天才が身近な人にもたらす余韻や傷の深さが印象的だ。

(筑摩書房 1760円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

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