再手術を考えて「癒着」が少なくなるように終わらせる
前回、足かけ23年で3回、弁膜症の手術をした81歳の女性患者さんのお話をしました。弁置換術で交換した弁が経年劣化して、その都度、再交換が必要だったのです。
弁を交換する手術自体は、3回目でもそれほど難しくはありません。とりわけこの患者さんの場合は、15年ほど前に行った2回目の手術の際、「おそらく3回目の交換が必要になるだろう」ということを想定していました。仮に3回目の手術をすることになっても、なるべく苦労しないように処置したのです。
再手術でいちばん苦労するのが「癒着」です。心臓の手術では、一時的に心膜(心臓を覆っている膜)を切開し、再び縫って閉じる処置を行います。縫い合わせた部分は、傷が回復する過程においてどうしても組織同士がくっついてしまう癒着を起こします。臓器や血管が複雑にくっついてしまって、スムーズに患部にメスを入れることができないケースは少なくありません。
そうした場合、癒着を丁寧に剥離しながら手術を進めていきますが、それだけ時間もかかりますし、技量も必要になってきます。癒着している部分とそうでない部分の境目はもろくなってしまうため、ちょっとしたことで血管が裂けて大出血を起こすケースもあるのです。