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永田宏長浜バイオ大学元教授、医事評論家

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

「クリスパー法」 生物ゲノムはネットで自由に検索できる

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 ゲノム編集にはいくつか方法がありますが、安さと手軽さからクリスパー法が大きくリードしています。2012年にアメリカとフランスの研究チームが発見した直後から世界中に広まり、いまやゲノム編集の代名詞になっています。

 CRISPRは、細菌で見つかった特徴的な構造を持った分子で、細胞内のDNAに結合しやすい性質を持っています。またCas9は、CRISPRを目印にしてDNAを切断する酵素です。そこで、DNA上の切断したい遺伝子に正確にCRISPRを結合させることができれば、Cas9がスパッと切り取ってくれるというわけです。しかしヒトの染色体は合計46本。つまり46本のカセットテープに、約2万曲の音楽が録音されているようなものです。その中の1曲を、どうやって探し出すのでしょうか。

 スタートは、目的の遺伝子をデータベースで検索することです。ヒトをはじめ、多くの生物のゲノム情報がネット経由で自由に利用できるようになっています。そこで、たとえばヒトの肥満遺伝子であるFiNCの遺伝子を検索するのです。

 次に、その情報をもとにFiNCだけに特異的に結合できるRNAを設計します。RNAはDNAの情報をもとにタンパク質合成に関わるなど、動的な役割を果たします。DNAは、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)と呼ばれる4種類の物質が長く連なってできています。RNAでは、Tの代わりにU(ウラシル)が使われています。そしてAとT(またはU)、CとGは、水素結合をつくることができるのです。ですからFiNCのAGCTの並びの一部、音楽でいえばサビの部分がわかれば、それに結合するRNAを設計するのは簡単です。あとはRNAを自動合成装置でつくり、CRISPRをつないで、Cas9と一緒に細胞に注入するだけです。放っておけば、合成RNAがFiNCを探し出して結合してくれて、Cas9がCRISPRを目印にFiNCを切断してくれるという仕組みです。もくろみどおりなら、太らない体質の子供ができるでしょう。

 さらに、すでに確立されているバイオテクノロジーの手法を使って、FiNCの一部を変えることもできますし、FiNCがあった場所に、何か別の遺伝子、たとえば脂肪の燃焼を促進するような遺伝子を挿入することも可能になるのです。

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