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名郷直樹「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

因果関係の基本 観察研究で分かること、言えること

公開日: 更新日:

 症例対照研究とコホート研究は、原因と結果の関係を、交絡因子を調整したうえで検討する研究ということです。具体的には、「冷え」という原因と「インフルエンザにかかる」という結果を、冷え以外のインフルエンザにかかりやすくする因子、かかりにくくさせる因子も調べ、交絡がなくなるように調整して検討した研究です。

 ここで重要なことは、必ず結果より原因のほうが時間的に前に調査されているということです。冷えの調査は、インフルエンザにかかったかどうかより時間的に前で調べる必要があります。

 先日、「入れ歯の手入れが肺炎を予防する」というニュースが流れました。そのもとになる論文をたどってみました。

 その研究は入れ歯の手入れ状況を調査したうえで、過去1年間の肺炎の有無を調査していました。ここでは結果である肺炎が過去にさかのぼって調べられ、原因である入れ歯の手入れが現時点で調べられています。

 入れ歯の手入れが原因で肺炎が少なくなるという結果が得たいわけですから、本来であれば肺炎を調査したうえで過去の入れ歯の手入れ状況を調べるというのが、時間的な関係を満たしたやり方です。この研究では、そこが「逆」になっています。この研究から言えることは、「入れ歯を手入れすると肺炎を予防できるということではなくて、肺炎を起こす患者は入れ歯の手入れをしなくなる」ということになります。

 このように原因と結果の調査順序が逆になっているような研究は珍しいですが、原因と結果を同時に調べたという研究は多くあります。この同時に調べた研究というのも症例対照研究やコホート研究と思われがちですが、これは「横断研究」と呼ばれるものです。

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