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石原藤樹「北品川藤クリニック」院長

信州大学医学部医学科大学院卒。同大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科研修を経て、1998年より「六号通り診療所」所長を務めた。日本プライマリ・ケア学会会員。日本医師会認定産業医・同認定スポーツ医。糖尿病協会療養指導医。

糖尿病治療を激変させた新たな薬「SGLT2阻害薬」の正体とは? 医師が解説

公開日: 更新日:

良い薬は高い、というジレンマ

 クリニックで毎日糖尿病の診療を続けていて、一番悩むのは医療費の問題です。

 糖尿病の治療にはお金がかかるのです。それも最新の良い治療をしようと思うほど、患者さんの医療費の負担は増えてしまい、それで患者さんは治療の継続をしづらくなる、というジレンマがあります。

 糖尿病の治療薬として、今最も患者さんの予後の改善に結び付く可能性が高いのは、2型糖尿病の場合、SGLT2阻害薬とGLP1であることは間違いがありません。

 その2種類の薬の登場以前に使用されていたのは、主にメトホルミンとSU剤、そしてDPP-4阻害剤でした。

 メトホルミンも患者さんの長期予後を改善する可能性のある、ポテンシャルの高い薬ですが、欠点は血糖を下げる作用の弱いことです。

 メトホルミンだけで良好なコントロールを得られることはそれほど多くはなくそのために他の薬を併用することになります。併用する薬の中で、副作用はあまりないけれど効果は弱いのがDPP-4阻害剤、効果は強いけれど低血糖の危険性が高いのがSU剤です。

 ただ、SU剤もDPP-4阻害剤も、今ではSGLT2阻害薬やGLP1と比較すると、患者さんの予後を改善しないことが、多くの研究で明らかになっています。

 つまり、患者さんのことを考えれば、絶対にSGLT2阻害薬やGLP1を使った方がよいのです。

 GLP1は少し前まで注射しかなかったので、少しハードルが高かったのですが、最近飲み薬も発売され、非常に使用のしやすい薬になりました。しかし問題はその価格です。

 では、実際の薬のみの価格差を見てみましょう。

 古い糖尿病の治療では、まずメトホルミンを使用しますが、これは500ミリグラムの1錠が、10.1円という安い薬です。

 通常1日1000ミリグラムから2000ミリグラムくらい使用することが多く、1日の薬の値段はせいぜい40.4円。1カ月30日で1212円です。

 薬局で払うお金には調剤料などが含まれますが、薬の値段だけでいえば、3割負担で400円しないくらいで済むのです。

 これでコントロールが不良の場合に、SU剤を上乗せしたとしましょう。

 代表的なSU剤のグリメピリドという薬があります。SU剤の中では副作用が少なく、安全性の高い薬といわれています。これを通常量の1ミリグラムで使用した場合、1日の薬の値段はこちらも10.1円です。

 つまり、両方の薬を使ったとしても、1カ月のお薬代は1515円。3割負担で450円ちょっとで済むのです。

■コストを取るか、効果を取るか

 一方でSGLT2阻害薬の代表的な薬のひとつである、エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス(R))を使った場合を考えてみます。

 少ない用量の1日10ミリグラムの薬の値段が188.9円。多い量の1日25ミリグラムでは322.6円となります。少ない量でも1カ月の負担は5667円、多い量では9678円と1万円近くになってしまいます。

 GLP1の場合、飲み薬のセマグルチド(商品名:リベルサス(R))の、通常使用量7ミリグラムの1日の薬の値段は325.7円。これも1カ月では1万円近くなります。

 GLP1の主体は注射になりますが、こちらも同じセマグルチドの週1回の注射薬(商品名:オゼンピック(R))の、1カ月の薬の値段は1万1008円です。

 SGLT2阻害薬とGLP1は併用することも多く、その場合は1カ月の薬代は2万円を超えることにもなるわけです(3割負担では6000円超)。

 つまり、古い治療の薬代は、1カ月せいぜい1500円くらいであったものが、新しい治療では1つの薬を使っただけで6倍になり、2種類だと12倍以上になる可能性もあるのです。

 私たち医者は、良い薬が出れば、簡単に処方を切り替える傾向があります。患者さんのためを思ってそうするのですが、忙しい診療の中で、患者さんに説明をしっかりせずにそうした変更をすると、思わぬトラブルを招くということがあります。

 たとえば、SU剤で治療をしていた、昔からの糖尿病の患者さんに、SU剤では予後を悪化させてしまう可能性がある、とGLP1の処方に切り替えると、患者さんは急に医療費の支払いが跳ね上がったことに驚き、実際には医療機関が儲けているわけではないのに、金儲け主義のように思われたり、「こんな高い薬は要らない」と、元に戻して欲しいと言われることがあるのです。

 これから皆保険制度での医療費は、ますます削減が求められる時代になるのですから、行政も病気ごとの適正な治療と適正な医療費について、日々アップデートすることが必要だと思います。新しい薬が出るたびに、必要な医療費も大きく変わることになるからです。皆さんもお医者さんから「新しい良い薬に替えてみましょう」と言われた時には、お金の問題を、ぜひ聞いてみるようにしてください。

 今の世の中それは決して恥ずかしいことでも、失礼なことでもないのです。

▽石原藤樹(いしはら・ふじき) 信州大学医学部卒。東京都出身。同大医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科研修後の1998年六号通り診療所所長に就任。2015年8月に「北品川藤クリニック」を開設、現在に至る。「石原藤樹のブログ」は毎回1万5000アクセスを超える人気ブログ。日本糖尿病協会療養指導医、医師会認定産業医、スポーツ医など。

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