肺がん末期の80代男性「いつ最期を迎えてもおかしくない…どうしても今日、家に帰りたい」
そして翌朝、私は再びご自宅を訪ねました。そこには、懸命に呼吸を続ける患者さんと、涙をこらえる奥さまの姿がありました。
「医療的な処置でできることは、もうほとんどありませんが、もし痛みがあるようなら、座薬をお出しできます。おそらく、最終段階に入っていると思います。ご自宅で過ごすのは、ご本人の強いご希望なのですね」(私)
「病院の先生も、『帰してあげたい』って言ってくれたんです……(涙)」(奥さま)
その数時間後、ご家族から「息を引き取った」との連絡が入りました。
体調に不安があるとき、すぐに対応してくれる病院を頼りたくなるのは自然なことです。しかし自宅というのは、病院とは違い、家族の声や匂いに包まれた、安心できる唯一無二の場所なのだと思います。
残された時間をご自宅で過ごし、旅立つ--。それは決して特別なぜいたくではありません。むしろ、そうした時間を支えることこそ、在宅医療の大切な役割のひとつなのです。