「ななめ45゜」岡安章介さん下咽頭がんとの闘いを語る
「お笑い」を見ると心が安らいだ
仕事に復帰したのは、退院から3カ月後のお笑いライブでした。声がれなどはなかったものの、ぜんぜん声が出ていなくて、ネタがまったくウケないことに焦りました。お客さんも病み上がりだと知っているから、つらそうに見守る感じで……。これじゃいけないと思って、ユーチューブを参考に自己流で喉を開くマッサージや発声練習をして、なんとか出るようになりました。
声帯の近くに放射線を当てたので声質が変わったり、声が出しにくくなるかもしれないとは言われていたのです。そのとき思わず先生に「僕、“駅員の声”出ますかね?」と聞いたら、「知りません」と言われてしまったんですけど、おかげさまで駅員の声も健在です。
このまま死んじゃうのかなぁと思ったこともありました。眠れない夜もありました。でも奥さんがずっと支えてくれましたし、相方2人に「戻ってこいよ」と言ってもらったのもうれしかった。待っていてくれる人がいることが心強かったです。「おまえはまだ死ななくていいぞ」と言ってくれた先輩もいました。言い方は雑ですけど、心に響きました。
さらに言えば、お笑いに救われました。つらくてテンションが下がることがあっても、お笑いを見ると心が安らぎました。4人部屋だったので病室では大笑いできないと思い、スマホを持って最上階まで行ってひとりでゲラゲラ笑っていました。笑うと悩みが一瞬消えるというか、不思議と元気になるんですよね。でも、さすがに自分たちのコントじゃないですよ(笑)。
お笑いってこんな作用があるんだと実感して、お笑いをやっていてよかったと思いました。いろんな人にお笑いを届けたいと思ったし、いつか自分たちのコントで入院している人たちを笑わせられたらすてきだなと思いました。 (聞き手=松永詠美子)
▽岡安章介(おかやす・あきよし) 1979年、埼玉県出身。2000年に小学校の同級生、土谷隼人と下池輝明とともにお笑いトリオ「ななめ45°」を結成。13年にMBS「歌ネタ王決定戦」で準優勝し、テレビなどで活躍中。7月20日(日)に7年ぶりの単独ライブ「EVER&NEVER45」が劇場MOMO(東京・中野)で開催された。
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