(4)言葉の上すべり…患者は「言葉」より「適切な処置」を求めている
そういえば、私の高校の教師は常々「世の中に絶対というものなどない。そんなものにだまされるな!」と言っていた。
いつの世にも絶対などはなくわれわれは両極端から中間までの入り交じったグレーの中で、生の生活をしている。医療だって100%の科学であるわけではなく、人間と社会のはざまでもがきながら、なんとも曖昧な作業を行っているに過ぎない。
「患者さんの身に寄り添う」という言葉に戻ろう。医者が患者に100%寄り添うなんてことはできない。医療人である以上、常に寄り添いたいという気持ちはある。でも、われわれがそれを口にした瞬間、言葉は上すべりして宙に浮き、時と場合によっては患者さんに大きなため息をつかせることになる。
在宅で筋ジストロフィーの患者さんを診ていたことがある。お付き合いの時間が長くなり、それなりの信頼関係が出来つつあるかな、と思った頃、その患者さんに「言葉よりも、呼吸器のネブライザーの角度を私の思う通りのところにセッティングして欲しい」と訴えられ、ハッとした。自分の思う通りの体の動きが出来ない患者さんにとって周辺医療機器の微妙な設定、調整は生活環境のみならず、生きることに直結する。患者さんが何よりも求めているのは適切な判断と必要な医療技術である。その希望が満たされないことを敏感に感じとった時に、患者さんは医師の質問に「特に変わりはありません」などと答える。