著者のコラム一覧
尾上泰彦「プライベートケアクリニック東京」名誉院長

性感染症専門医療機関「プライベートケアクリニック東京」院長。日大医学部卒。医学博士。日本性感染症学会(功労会員)、(財)性の健康医学財団(代議員)、厚生労働省エイズ対策研究事業「性感染症患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究」共同研究者、川崎STI研究会代表世話人などを務め、日本の性感染症予防・治療を牽引している。著書も多く、近著に「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)がある。

(1)ドスを突き立て「俺の女の淋病を治せねえのか!」

公開日: 更新日:

 ある日、ひと目でその筋とわかる若い男性が怒鳴り声を上げながら、診察室に入ってきました。ドスを診察机に突き立て、「俺の女の淋病を治せねえのか!」と凄むのです。突然のことで私の頭の中は真っ白に……。しかし、すぐに「パートナーの女性はこの男性の生活の糧。一日でも早く仕事に復帰してもらいたいはずだから、私に暴力を振るうはずがない」と思い直しました。

 努めて冷静に「あと数日薬を飲めば治りますよ」と説明すると、男性は「本当に治せるのか? それなら注射打ってすぐに治せ」と必死の形相で詰め寄ってきます。それでも「必要ありませんよ」と答え、その理由を淡々と説明すると、納得したのか「先生、すいません。よろしくお願いします」とおとなしく頭を下げて帰っていきました。

 今も性感染症の正しい知識を持っていない人が大勢いますが、当時はもっとひどかった。淋病を不治の病と思う人もいたのです。

 ちなみに当時の淋病治療の基本は飲み薬。1日2~3種類の抗生物質を10~14日間飲むことが求められていました。いまのように耐性菌は多くなく、治りも早かった。よほど重症でなければ注射薬は使いませんでした。

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