広島県三原市でスローなセカンドライフはいかが?
三原市は広島県の中東部に位置し、瀬戸内海に面する人口10万人弱の小都市。名物はタコとダルマ、シンボルは三原城。それだけ聞いても掴みどころがないが、実際に訪れてみると人柄も気候も穏やかで、交通の便が良いのにスローな暮らしが満喫できる。中高年のセカンドライフにピッタリな街だった。
まず訪ねたのは、海が見えるイタリアンレストラン「Trattoria di Miramare FURUOKA」(℡0848・67・6777)。三原産のタコなど地元の食材を使ったメニューが豊富だ。今回いただいたのは、「瀬戸内レモンとやっさだこのペペロンチーノ」(1500円)、「季節の魚とやっさだこのズッパディペッシェ」(1700円~)、「神明鶏のポルチーニクリーム煮込み」(1200円~)の3品。
特に名物のタコを使った2皿は食感の違いにビックリ。片やさっと火を通してプリッと、片や3時間じっくり煮込んでしっとりと……同じ食材でこうまで違うのか。ちなみに“やっさ”とは三原の伝統芸能「やっさ踊り」からきている。
料理に合わせたのは三原のブドウを使い、三原の魚介類に合うよう仕上げられたワイン「ACE(エース)」(瀬戸内醸造所)。さっぱりとした微発泡の赤で、確かにタコのような淡泊で食感を楽しむ食材にはピッタリ。こうした“地産地食”は旅の醍醐味だ。今は他県での委託醸造だが、間もなく三原市内にワイナリーができる予定。
食後は三原随一の眺望スポット「竜王山展望台」へ。しまなみ海道10橋のうち7橋を一望でき、晴れた日には四国山地も望める。その“多島美”は瀬戸内海随一と評判。春には山頂に桜が咲き誇り、花見も楽しめるそうだ。
山から下りたら海のそばの「陶工房 Pole Pole(ポレポレ)」(℡0848・51・7864)へ。
ポレポレとはスワヒリ語で“のんびり”“ゆっくり”の意味。三原出身の陶芸家・安田あすかさんの作品を展示販売するほか、安田さんの手ほどきで陶芸体験も行っている。費用は大人2500円~。
完成した作品は後日、焼成して送ってもらえる。3日前までの要予約。
たそがれ時、一行はJR三原駅から徒歩5分の「三原港」から、こよいの宿がある「小佐木島」へ向かう。
高速船に揺られることわずか13分で到着。こちら、“新幹線の駅から最も近い離島”といわれている。
外周3・2キロ、人口6人の小佐木島。派手な見どころや観光スポットはない。アート作品の展示が縁で4年前に移り住んだ寺川成美さんは、「誰にも邪魔されず作品制作に没頭したいと思っていたのですが、山奥で自給自足するほどの根性はない。でもここなら、いざとなれば船に乗って都会に出られる。そういう便利さに引かれました」と言う。
宿泊は古民家をリノベーションしたゲストハウス「宿NAVELの学校」(℡0848・87・5130/1泊2食付き1人1万1000円)。トイレやシャワー、冷暖房完備だがテレビはない。いわゆる“島時間”を満喫するためだ。
夕食はオーナーの奥信司さんが自ら釣ってきた三原の海の幸のフルコース。新鮮な刺し身のほか、こよいは特別にタイの酒蒸しも宴卓に並んだ。
奥信さんは尾道でサラリーマンをしていたが、釣りのために通っていた小佐木島に魅せられ脱サラし民宿のオーナーに。
「子供も手を離れたし、借金もなかった。妻に相談したら『いいよ』と。給料は下がったけど毎日が楽しい。同僚は羨ましがってますよ」
朝は夜明けとともに島内を散歩。ゆっくり歩いても30分で一周してしまった。本当に何もない。あるのは海と森だけ。だけど、それが何よりのぜいたくだ。
朝一番の船で三原市街に戻る。まだまだ9時前。時間はたっぷりある。まずは駅と直結する「三原城天守台跡」を散策。石垣の上から街を見下ろすと、北側の旧街道沿いにズラリ縁日の屋台が並び、大勢の人で賑わっている。折しも毎年2月の第2日曜日を含む3日間に繰り広げられる「三原神明市」の開催日だった。
祭りのシンボルは高さ3・9メートル、重さ500キロの“日本一”の大ダルマ。子供たちがかぶる張り子のダルマ行列も可愛らしい。小山の中腹にある「極楽寺」には、全国のダルマ7000体以上がコレクションされた「達磨記念堂」が。その数と種類の豊富さには圧倒された。
ダルマ気分が高まったところで三原駅構内の観光案内所にある「三原だるま工房」(℡0848・67・5877)へ。こちらでは通年ミニだるま作りを体験できる。1人600円。旅のお土産にいかが。
最後はやはりタコ、ということで「三原市漁業協同組合」へ。いきなり真っ赤なタコ帽子をかぶって現れたのは組合長の濵松照行さん。タコのイベントがきっかけでかぶり始めたそうだが、「全部手作り」とまんざらでもなさそう。とれたてのタコの刺し身、タコ飯、タコ天をいただきながら、タコの解体の実演を拝見(要予約・3300円)。
瀬戸内海でも荒い海流でもまれた三原のタコは引き締まった身が特徴。それを損なわぬよう、水揚げするとすぐ活け締めし、鮮度を保ちながら急速冷凍と真空包装にかける。伝統だけでなく、そうした最新技術もブランドを裏打ちしているのだ。まさに「やっさタコ」は三原の誇り。さすがにタコが嫌いでは、移住はできないかも?
※問い合わせは三原市観光課(℡0848・67・6014)
(取材・文=いからしひろき)