暗記が苦手な人ほど司法試験に早く合格しやすいワケ…カリスマ塾長の伊藤真氏が明かすその秘訣
丸暗記が得意な人ほど応用が苦手
司法試験をはじめとする法律資格受験指導校「伊藤塾」を主宰し、40年以上にわたって、法律家や公務員を目指す人たちや法律の世界で活躍する人たちと関わってきた伊藤真さんは、「覚えるのが苦手な人のほうが、早く司法試験に合格する傾向があります」という。
試験や勉強で「覚えるのが苦手」という人の意外な強みとは。「これだけはしっかり覚えておきたい」ということだけを確実に記憶できる方法に迫った、伊藤さんの著書『大事なことだけ覚える技術』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
◇ ◇ ◇
記憶力がよい人は簡単に覚えられてしまうので、記憶するための努力や工夫をしないぶん、かえって合格しにくいこともあるのです。記憶力に自信がない人はいろいろ工夫するので、ゴールに到達しやすいのです。
たとえば、記憶力に自信のない人は、「400字の説明文」をどうしても暗記できないから、キーワードやキーセンテンスを探して、論理の流れとして覚えようとします。丸々暗記ができない部分を、キーワードや論理の流れで覚えたり、大切なものから優先順位をつけたりして記憶します。自分なりの順番や論理展開に置き換えてみたり、ストーリーにしたりして覚えるわけです。
すると、キーワードやキーセンテンスは残したまま、枝葉を削ったり、ふくらませてみたりも簡単にできます。しかも自分の言葉に置き換える作業の過程でいろいろ考えるから、より理解が深まります。
こうして創意工夫をするので、有効な記憶のしかたができますし、同時に考える訓練もできるから〝一石二鳥〟になります。
以前、伊藤塾に並外れて記憶力のよい学生がいました。教科書を一度読んだだけで、全部覚えてしまいます。本人いわく、一回読めば、完璧に記憶できてしまうのだそうです。
まさに天才です。「○○の言葉について説明しなさい」と言われると、その説明のページを丸々思い出して、さっと書いてしまいます。しかし、彼は記憶した概念を組み合わせて、その関係性を考えたり、未知の問題が出たときに、対処法を考えたりするのがとても苦手でした。
つまり、丸暗記が得意であるがゆえに、現場での寸法合わせができなかったのです。400字の説明文でカッチリ覚えてしまうから、現場で300字にして書かなければいけないとか、500字にふくらませて述べるというときに、どこを縮め、どこをふくらませたらいいかわかりません。
結局、彼は受かりませんでした。途中から法曹界ではなく、別の方向に進路変更し、そちらで活躍しています。
記憶力がよいからといって、試験に通るわけではありません。簡単に記憶できるから、もうそれ以上やらない。やる必要がない。それで落ちてしまうという例も少なくありません。抜群の記憶力があっても、逆にそれがマイナスになってしまうこともあるのです。