憂鬱以上、うつ未満…“半うつ”かもと思う人に知ってほしい「心が動く」メカニズム

公開日: 更新日:

 朝起きた時、「今日は何をしようかな」とワクワクする日もあれば、「また今日も一日が始まる…」と重い気持ちになる日もある。後者のような状態が続いていたら、それは「半うつ」のサインかもしれない。精神科医の平光源さんが提唱する「半うつ」とは、うつ病とまでは言えないが、確かに憂鬱を超えた不快感がある状態のことだ。

 平さんによると、私たちの心には「エンジン」のような仕組みがあり、それを動かしているのがドーパミンという物質だという。この心のエンジンが不調になることが、半うつの一因になるのだ。では、どうすれば心のエンジンを適切に動かし、守ることができるのか。平さんの著書『半うつ 憂鬱以上、うつ未満』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。

◼️ワクワクした気持ちはどこからやってくる?

 なぜ私たちは時々ワクワクして、時々そうでなくなるのでしょうか? 実は、ワクワクには明確な「発生条件」があります。ドーパミンによる心のエンジンは、マニュアルではなくオートマチックに動きます。私たちが意識しなくても、ある条件が揃うと勝手に回転数を調整してくれるのです。

 その条件とは、「期待していたこと」と「実際に起こったこと」のギャップです。専門的には「報酬予測エラー理論」と呼ばれるこの仕組みは、私たちの脳が自動的に「予想」と「現実」を比較して、その差に応じてドーパミンの分泌量を調整するシステムです。

▼ワクワクが生まれる3段階の仕組み
 
 具体的に、我々心のエンジンは次の3段階で動いています。

①ワクワクが生まれる時:予想を上回る出来事(サプライズ!)

「思ったより早く仕事が終わった!」

「期待していなかった友人から連絡が来た!」

「偶然、美味しいお店を見つけた!」

 こういった予想を上回った良いことが起こると、脳は「これは学習する価値がある!」と判断し、ドーパミンを大量分泌します。結果、ワクワク感が生まれ、心のエンジンの回転数が上がります。

②ワクワクが現状維持される時:予想通りの出来事(安定)

「いつものカフェで、いつも通りの味のコーヒーを飲んだ」

「いつもの電車で、いつも通りの時間に到着した」

「家でゆったり、まったり過ごした」

 こういった予想通りの出来事では、ドーパミンは通常レベルで分泌され、心のエンジンは安定したアイドリング状態を保ちます。ワクワクは特に増えませんが、現在の状態が維持されます。

③ワクワクが減少する時:予想を下回る出来事(がっかり)

「楽しみにしていた予定が中止になった」

「仕事で頑張ったのに報われなかった」

「期待していたのに裏切られた」

 こういった予想よりも悪い結果になると、脳は「この方法は効果的でない」と学習し、ドーパミンの分泌を減少させます。結果、がっかり感が生まれ、心のエンジンの回転数が下がります。

ドーパミンこそがワクワクそのもの

 つまり、ワクワクとは「予想を超えた良いことが起こった時に、それを記憶して次回も同じ行動を取るよう促すための脳の仕組み」なのです。

 例えば、新しいカフェに入って予想以上に美味しいコーヒーに出会った時、あなたは「また来たい」と思うでしょう。そのワクワク感こそが、「この店を覚えておこう」「次回もここに来よう」という学習を促しているのです。

 逆に、期待していたレストランでがっかりした時は、「もう来ないかも」と思う。これも同じく、効率的な学習システムが働いている証拠です。

 このように、私たちが日常で感じるワクワクやがっかりは、実は生きていくために必要な「自動学習システム」の一部だったのです。つまり、ドーパミンは私たちが「ワクワクする」ことに深く関わっている神経伝達物質。誤解を恐れずに言うならば、ドーパミンこそが「ワクワク」そのものと言ってもいいでしょう。

 ここでは、この「報酬予測エラー理論」を活用しながら、心のエンジンを動かしていく方法について触れていきたいと思います。

◼️エンジンは最も壊れやすい部品

「心のエンジンの動かし方」について理解していただく前に、まず知っておいていただきたいことがあります。それは、「エンジンは最も壊れやすい部品」だということです。そして一度エンジンが壊れてしまうと、修理に時間もお金もかかってしまいます。

私たちの心も同じです。心のエンジンであるドーパミンシステムは、とても繊細で壊れやすい仕組みなのです。だからこそ、動かし方を学ぶ前に、まずは「どうすれば壊さずに守れるか」を知っておくことが大切です。

心がエンストを起こしてしまう3つの主な原因を見ていきましょう。

◼️心がエンストしてしまう理由① エンジンの暴走

エンジンの回転数が上がり過ぎる。つまりドーパミンが出過ぎると、思考が豊かになり過ぎて、それが幻覚として知覚されたり、妄想に発展してしまったりすることがあります。主な原因は、極度のストレス、睡眠不足の継続、過度な刺激(ギャンブル、アルコール、薬物など)、そして「頑張り過ぎ」です。特に真面目で責任感の強い人ほど、「もっと、もっと」とアクセルを踏み続けてしまい、エンジンが制御不能になってしまいます。

そういった状態が被害的に出る病気が統合失調症であり、誇大的、多幸的に出るのが躁うつ病の躁状態。いずれも暴走がずっと続くわけではなく、最後にはエンジンが焼き切れてストップし、うつ病のような状態になってしまいます。

◼️心がエンストしてしまう理由② エンジンの停止

先に述べた病気の結果、または過度な残業や過度なストレス、もしくは慢性的な寝不足や栄養不足であっても、ドーパミンが出過ぎることがあります。その結果、枯渇してしまうと、最後は機能停止の状態になってしまいます。

思考力はなくなり、感情は平板化して、社会的に引きこもってしまうようになるのです。

■心がエンストしてしまう理由③ 快楽依存

 最近はこのドーパミン系の神経伝達物質が「依存」に深く関わっていることがわかってきています。アルコールや覚せい剤、または過食やギャンブル依存など、特定の物質や娯楽を求めると、一時的にでもドーパミンが放出されて、「偽の喜び」に浸ることができるため、いたるところに依存症の罠が存在しています。

 しかし、こういったことで得られる快楽は本当に一時的で、さらに悪いことに耐性が出てくるため、更なる強い物質を要求するようになります。

▽平 光源(たいら・こうげん) 東北のとある精神科医院を営む、精神科医。高校時代、不登校が原因で医学部受験に失敗。3浪してうつになり、ある本がきっかけでうつから回復した経験をふまえて、約25年精神科医として心のケアに当たる。支援学校学校医、老健施設往診医、いのちの電話相談医、傾聴の会顧問など、その活動は多岐にわたる。精神保健指定医、精神科専門医、日本医師会認定産業医。著書『あなたが死にたいのは、死ぬほど頑張って生きているから』(小社刊)が2022年の第2回メンタル本大賞優秀賞を受賞。

最新のライフ記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    巨人・岡本和真がビビる「やっぱりあと1年待ってくれ」…最終盤に調子を上げてきたワケ

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    (4)指揮官が密かに温める虎戦士「クビ切りリスト」…井上広大ら中堅どころ3人、ベテラン2人が対象か

  5. 5

    ドラフト外入団の憂き目に半ば不貞腐れていたボクを最初に見出してくれたのは山本浩二さんだった

  1. 6

    高市早苗氏の「外国人が鹿暴行」発言が大炎上! 排外主義煽るトンデモ主張に野党からも批判噴出

  2. 7

    ヤクルト村上宗隆の「メジャー契約金」は何億円? DeNA戦で市場価値上げる“34戦18号”

  3. 8

    概算金が前年比で3~7割高の見通しなのに…収入増のコメ生産者が喜べない事情

  4. 9

    権田修一が森保J復帰へ…神戸サポもビックリ仰天“まさかの移籍劇”の舞台裏

  5. 10

    マツコはやっぱり怒り心頭だった…“金銭トラブル”前事務所社長を「10億円提訴」報道