コルトレーンのソプラノサックスのあの音を聴いた瞬間、涙が溢れ出した
新宿らしくてイイ
歓迎の曲はコルトレーンのチムチムチェリー。マイフェイバリットシングスと並んでアタシの好きなジュリー・アンドリュースの名曲だ。サイコ~! この年になると体のいろんな場所が緩んでくるが、涙腺が緩くなったのは困りものだ。喜怒哀楽で涙を流すことは少なくなったが、例えば、好きな映画の一場面や炸裂するテナーサックスの一音に感情とは別に感極まる。今日もコルトレーンにしか出せないソプラノサックスのあの音を聴いた瞬間、涙が溢れる還暦男。ハナをかむふりして涙を拭い、周りを見るとケロッとして聴いている若い客が多い。アタシと同世代は3、4人か。昼から黒ビールの男子やショッポを吸っている生意気そうな女子もいる。新宿らしくてイイね。
アタシはリアルタイムでは体験のない1960年代にあこがれ、10代の頃はその時代に遡ることに必死だった。その頃の映画、音楽、活字を背伸びしてむさぼっていた。相倉久人の「ジャズからの出発」や平岡正明の「一番電車まで」に浸り、ナット・ヘントフの「ジャズ・カントリー」にしびれ、大島渚の「新宿泥棒日記」を上映している名画座を血眼になって探し、山下洋輔トリオを追いかけた。行きつく先はジャズ喫茶か映画館。何とかして一世代上の連中に追いつこうとしていた。気が付けばDUGと同い年のジジイだぜ、ばかやろ~、ヒヒヒヒ(タイちゃん言葉)。
同世代の2人客が隣で昔話を始めた。懐かしい店名が耳をかすめる。「上野のイトウもシブかったね」。たしかに。黙って聴くのもいいし、静かに会話しながら聴くのもいい。そこがDUGのいいところ。物音を立てて睨まれるような雰囲気はここにはない。気が付くとバド・パウエルのピアノに変わっていた。
混んできた。トイレに行って引き揚げるとしよう。中に入ると張り紙が。「閉店のお知らせ2026年6月27日……」。涙。 (藤井優)
○DUG 新宿区新宿3-15-12
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