お気に入りのブランドへの愛情が崩れる瞬間…パッケージが左右するコーラとペプシの評価

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足すことで価値が下がる

 家電量販店に一歩足を踏み入れれば、そこは床から天井まで積み上げられたケーブル、さまざまな電子機器、バッテリーのジャングルだ。従来の販売計画では、陳列する商品が多ければ多いほど売れる可能性が高くなると考えられていた。これはきわめて論理的な考え方だ。けれどもアップルは、人間が論理的ではなく、それよりもはるかに大きな心理的作用が働くことを知っていた。

 どこの国のアップルストアでも、フレームの驚くべきパワーを引き出し、iPhoneなどの小さな電子機器に数千ドルも費やす価値があると、無意識に客を納得させている。

 アップルは雑然とした家電量販店とは一線を画し、高価で唯一無二の作品を展示したアートギャラリーさながらに店舗をデザインした。彼らの作り出すフレームが、その中の小さな機器の価値を左右することを、チームの行動科学者たちは知っていたのだ。

 希少性の原理(フレーミングの一種)を利用して陳列する製品の数を限定する。つまり、供給が限られているように見えると需要が高まり、その結果、製品の知覚価値が上がる。店舗の賃料がけっして安くはないことは誰でも見当がつくため、個々の製品の周囲にじゅうぶんなスペースを取ることで、それだけの費用をかける価値があることを示している。すると消費者の心理は、あたかも芸術作品のように、周りの空間の価値を製品そのものに注ぎこむ。アップルは観客を魅了する心理的舞台に製品を据えているのだ。

 フレームがどれだけ認識を変えるのか、次の図を見てほしい。

 私は健康管理のウェアラブルデバイスを製造するWHOOPという会社に投資し、アンバサダーも務めている。同社は最近、業界トップの36億ドルの評価額が付けられ、顧客には、クリスティアーノ・ロナウド、レブロン・ジェームズ、マイケル・フェルプスなど、錚々たるアスリートが名を連ねている。

 アップル、フィットビット、ガーミンなど、莫大なマーケティング予算を投入する大企業がひしめく分野を制した背景には、天才的なフレーミング戦略がある。

 WHOOPのCEOによると、技術的には簡単にもかかわらず、時刻表示機能を追加してほしいという要望に抵抗しつづけてきたのも、まさにこの理由からだという。目下、健康管理のウェアラブル端末/リストバンドのカテゴリーで、画面も時刻表示もないのはWHOOPだけだ。

 なぜか? それは、画面を追加すれば消費者の認識が変わってしまうと考えるからだ。アスリートが利用する高性能の健康管理デバイスではなく、単なる腕時計になると。時刻の表示は客観的には役に立つ機能でも、それを追加することで製品の心理的価値は下がる。

 心理的ムーンショットにおいては、足りないことに価値がある場合が多い。そしてたった1つの言葉、微調整、決断によって、製品への価値認識が大きく変わる。

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