瀬戸大也と大坂なおみの敗退で生じた「アスリートに人間性は必要か?」という問い

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 7月30日に行われた東京五輪競泳男子200メートル個人メドレー決勝で、惜しくも0.05秒差で4位となりメダルを逃した瀬戸大也選手(27)。400メートル個人メドレーと200メートルバタフライで予選落ちし、瀬戸選手の最後の試合となった決勝での白熱した試合に感動した人も多かった。

 一方、その前の予選落ちの際に瀬戸選手が発した<やっちゃった>という一見軽く感じる発言を受け、ネットでは批判の声も噴出。その後、さらに<いろいろ言われてめっちゃむかつきますけど…>という言葉が火に油を注ぐ結果となり、素直に瀬戸選手を応援できないという声も見受けられた。

 同じく予想外のところで敗退したのが大坂なおみ選手(23)だ。世界ランク42位のボンドロウソバ選手(22、チェコ)にストレートで敗北。大坂選手は取材のミックスゾーンを通らず取材拒否の姿勢を示したが、テニス協会の説得で戻り取材を受けた。

 初戦ならまだしも「ルールであることを知らなかった」という理由で、敗戦後の取材を拒否する姿勢にはやはり一定数の批判の声があがった。その後、大坂選手は「皆さまの期待に応えることができずにごめんなさい」などとマネジメントを通じて謝罪コメントを発表した。

 こうした大坂選手と瀬戸選手に対する批判は、「負けたこと」に対するものではない。一概にはいえないが、人々が応援したいと思えるような「人間性」が伴っているアスリートほど結果を残す傾向にあることを今回改めて感じた。

■応援する側とされる側の信頼関係

 前提として瀬戸選手の過去の不倫問題を蒸し返した誹謗中傷や、大坂選手の人権に関する誹謗中傷は、当然あってはならない。

 しかし応援する側が、選手たちがどのようにその競技と向き合い、人生を掛けてきたのか? という重みを受け取るには、選手たちのこれまでの言動から推察するしかない。

 長い時間を積み上げ、様々なものを犠牲にして戦うから応援する側は感動するのであり、たとえメダルが取れなくても、感動させてくれたことにエールを送りたくなるのだ。

 だからこそ応援する側、される側の信頼関係が選手たちの良質なパフォーマンスを生むためにとても大切になってくるのではないだろうか?

大谷翔平は強いアスリートには「人間性」も必要だと理解していた

 柔道男子73キロ級の大野将平選手(29)は、見事に金メダルに輝いたが、その後のコメントで五輪開催の賛否への理解を示しながら、<我々アスリートの姿を見て何か心が動く瞬間があれば本当に光栄に思う><今後も自分を倒す稽古>などと、その"人間力"溢れるコメントが、世界中にさらなる感動を与えた。

 アスリートが持つ本当の力というのは、試合で結果を出すフィジカルの強さだけではなく、応援し、支えてくれる人への感謝や、人々に希望を与えるために頑張れる心の強さなのだと思い知らされた。

 それゆえに、瀬戸選手が200メートル個人メドレーの試合終了後にマスクをしないまま自分のことだけをひたすらに語る姿勢はとても違和感があったし、白熱した決勝での感動が一気に冷めていくような感覚にも陥った。

 何より自身の言動が己のメンタルに悪影響を及ぼし、それが顕著に結果にも表れた分かりやすい一例のようだった。

大谷翔平のマンダラチャート

 そして五輪開催の最中である7月28日に2試合連続の37号逆転3ランを放ち、記録を塗り替えたのがエンゼルスの大谷翔平投手(27)だ。

「PRESIDENT」2018年7月30日号で紹介されていたのは、大谷選手が、高校時代に作っていたマンダラチャートという自分が目標達成のためにやるべきことを「見える化」し、具体的に目標達成へ向かうための表である。

 メインの目標となる8つ項目を書く欄があるが、その一つに「人間性」という言葉があった。そしてその周りに詳細な目標設定が書かれており、そこには「思いやり」「礼儀」「感謝」「愛される人間」「信頼される人間」などが書かれている。

 大谷選手はよく球場でも自然とゴミを拾っていたり、ファンにサインを求められたら、どんなに疲れていても鞄を地面に置き、丁寧に応対している。

 前人未到の大記録を達成した大谷選手は、早い段階から強いアスリートになるためには「人間性」も必要だということを理解していたのだろう。

 応援され、信頼される人間は強い。なぜならそれを裏切ってはならないと自分一人で頑張る以上の力が出せるからだ。「アスリートにとって"人間性が必要か?」という問いには、やはり必要だと筆者は思う。

 瀬戸選手は、次回のオリンピックを目指す意向を表明したが、この3年間の間にしっかりと「人間性」も育て、本当の意味で"強い泳ぎ"を見せてほしい。

(文=水野詩子/ライター・コラムニスト)

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