「私が息子を殺した」と慟哭した母

公開日: 更新日:

「戦争が遺した歌」長田暁二著 全音楽譜出版社

 戦争中に軍人一家の長男に嫁いだ女性がいた。最初に娘が生まれ、次にまた娘だったので、また女か、という空気が漂う。

 3人目に息子が生まれ、周囲は手のひらを返したように、でかした、でかした、という雰囲気になった。

 その女性も胸を張って息子にスパルタ教育をし、それに応えた息子は江田島の海軍兵学校に進んだ。そして、特攻を志願する。戦地に発つ前、別れに来た息子に彼女は先祖伝来の短刀を渡した。つまりは、捕まりそうになったら、これで死ねということである。

 それに対して息子は、まるで上官に対するような敬礼をして出発していった。まもなく戦死の報が届き、白木の柩と一緒の遺書には「後に続くものを信ず」とあった。当時はやった「軍国の母」という歌にこうある。

 生きて還ると思うなよ
 白木の柩が届いたら
 出かした我が子天晴れと
 お前を母は褒めてやる
 息子は軍神と称えられ、彼女は「軍神の母」として新聞に載った。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    新生阿部巨人は早くも道険し…「疑問残る」コーチ人事にOBが痛烈批判

  2. 2

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  3. 3

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  4. 4

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  5. 5

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  1. 6

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  2. 7

    維新・藤田共同代表にも「政治とカネ」問題が直撃! 公設秘書への公金2000万円還流疑惑

  3. 8

    35年前の大阪花博の巨大な塔&中国庭園は廃墟同然…「鶴見緑地」を歩いて考えたレガシーのあり方

  4. 9

    米国が「サナエノミクス」にNO! 日銀に「利上げするな」と圧力かける高市政権に強力牽制

  5. 10

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性