「昭和からの伝言」加藤廣著
昭和の高度成長期にだけ焦点を当て、日本の素晴らしさを強調する論調が増えている。昭和1ケタ生まれの著者は、それが戦前戦中に自分が教え込まれたものと似通っていることを危惧し、自分が体験してきた昭和の姿を書き残しておくことを決意した。本書は、次世代に向けて、自らの人生と昭和史を重ね合わせながらつづった実感的昭和史だ。
昭和5年に東京で生まれた著者は、高田馬場でモダンガールだった母親に自由主義教育を受けて育った。7歳で中国と、11歳で米国との戦争へと進んでいくなか、学校も軍事色に染まっていく。その後、終戦を境に手のひらを返したように世の中が変わる。空腹のなかの東大受験、学園紛争、金融業界に就職して組織の功罪に直面し、脱サラの道を探り作家へと転身した著者の人生は、昭和の歴史そのものを映しだす。
最終章「日本の自壊を食い止めるために」では、これからの日本人に向けての具体策を提言。若者に向けてエールを送っている。(新潮社 1600円+税)