「崑ちゃん ボクの昭和青春譜」大村崑著

公開日: 更新日:

 戦後生まれの昭和子どもは、ブラウン管に映る崑ちゃんを見て、笑って、育った。「やりくりアパート」「番頭はんと丁稚どん」「とんま天狗」。ダイハツのミゼットやオロナイン軟膏のCM。鼻眼鏡のおとぼけキャラで、国民的な人気者になった。

 その崑ちゃん、80代半ばになったいまも元気に活躍している。崑ちゃんが長い芸能生活の記憶のあれこれを語ったら、それはそのまま昭和の芸能秘話になった。

 本名は岡村睦治。兵庫県生まれ。実父は睦治が9歳のとき、腸チフスで亡くなり、子どものいない伯父夫婦に引き取られた。伯母のしつけは近所の目に「いじめ」と映るほど厳しかった。戦中、戦後に思春期を送り、神戸の焼け跡で思い出したくない体験もした。闇物資の商売にも手をそめた。そのときの仲間のひとりが、後の横山ノック。

 工業高校卒業後、アルバイトを転々とするうちに「芸能界に行きたい」と思うようになった。手始めにキャバレー「新世紀」のボーイになり、しゃべり上手を買われてやがて司会者へ、コメディアンへと転身する。キャバレーの舞台から劇場の舞台へ、そして黎明期のテレビへ。舞台と生放送を掛け持ちで、怒涛の忙しさ。でも崑ちゃんは快進撃を続けた。

 共演者をはじめ、長い芸能生活を通じて接点のあった昭和のスターたちのエピソードをたっぷり収録。佐々十郎、芦屋雁之助、小雁、森繁久弥、伴淳三郎、藤山寛美、由利徹、渥美清、トニー谷、江利チエミと高倉健、美空ひばり母娘……。みな、ひとクセあるつわものばかり。確執もあれば和解もあった。笑いも涙もあった。多くは故人となってしまったが、崑ちゃんの語り口が、その素顔を生き生きと蘇らせた。(文藝春秋 1400円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    「二股不倫」永野芽郁の“第3の男”か? 坂口健太郎の業界評…さらに「別の男」が出てくる可能性は

  3. 3

    気温50度の灼熱キャンプなのに「寒い」…中村武志さんは「死ぬかもしれん」と言った 

  4. 4

    U18日本代表がパナマ撃破で決勝進出!やっぱり横浜高はスゴかった

  5. 5

    坂口健太郎に永野芽郁との「過去の交際」発覚…“好感度俳優”イメージダウン避けられず

  1. 6

    大手家電量販店の創業家がトップに君臨する功罪…ビック、ノジマに続きヨドバシも下請法違反

  2. 7

    板野友美からますます遠ざかる“野球選手の良妻”イメージ…豪華自宅とセレブ妻ぶり猛烈アピール

  3. 8

    日本ハム・レイエスはどれだけ打っても「メジャー復帰絶望」のワケ

  4. 9

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  5. 10

    自民党総裁選の“本命”小泉進次郎氏に「不出馬説」が流れた背景