なるほど。深く勉強するとノリが悪くなるのか

公開日: 更新日:

「勉強の哲学 来たるべきバカのために」千葉雅也著/文藝春秋/2017年4月

 1978年生まれの哲学者による優れた勉強法の本だ。入門書の読み方についてなどハウツー本の要素もあるが、主に著者が訴えているのは「なぜ勉強しなくてはならないのか」という、そもそも論についてだ。著者は、勉強をするとノリが悪くなると指摘する。

〈深くは勉強しないというのは、周りに合わせて動く生き方です。状況にうまく「乗れる」、つまり、ノリのいい生き方です。それは、周りに対して共感的な生き方であるとも言える。逆に、「深く」勉強することは、流れのなかで立ち止まることであり、それは言ってみれば、「ノリが悪くなる」ことなのです。深く勉強するというのは、ノリが悪くなることである〉

 一昔前の表現に言い換えると「知識人(インテリ)になると周囲から浮き上がる」ということだ。確かにその通りだと思う。

 さらに著者は、勉強する上でもっとも重要なのは言語の使い方であるという。

〈言語は、現実から切り離された可能性の世界を展開できるのです。その力を意識する。わざとらしく言語に関わる。要するに、言葉遊び的になる。このことを僕は、「言語偏重」になる、と言い表したい。自分のあり方が、言語それ自体の次元に偏っていて、言語が行為を上回っている人になるということです。それは言い換えれば、言葉遊び的な態度で言語に関わるという意識をつねにもつことなのです。深く勉強するとは、言語偏重の人になることである〉

 この見解にも評者は全面的に賛成だ。思想の特徴は、文体に表れる。ある作家の文体がこれまでと比べて大きく変化したならば、その人の思想に変化があったということだ。日常生活でも、遠距離恋愛や単身赴任のとき、メールでやりとりしているパートナーの文体に変化が生じたときは、相手に親しい人ができ、その人の影響を強く受けるようになったと考えて間違いない。

 本書に書かれている事柄を少し操作すると、現実に適用することができる。その意味で「勉強の哲学」は優れた実用書でもある。★★★(選者・佐藤優)

【連載】週末オススメ本ミシュラン

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    前田健太「ドジャース入り」で大谷との共闘に現実味 日本復帰より「節目の10年」優先か

  2. 2

    井桁弘恵ショートカットで“山之内すず化”が加速! 「そっくり問題」いよいよ待ったナシ

  3. 3

    大阪万博は開幕1カ月を待たずトラブル続出…場当たり説明でGW後半の盛り上げムードに水を差す協会の大罪

  4. 4

    巨人阿部監督はなぜ田中将大にだけ甘いのか…2試合連続炎上でさすがに二軍調整も

  5. 5

    小田和正「77歳の現役力」の凄み…現役最年長アーティストが守り続ける“プロ意識”

  1. 6

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した

  2. 7

    ダウンタウン復帰が外部資金でコンテンツ配信のナゼ…松本人志に浮上した疑惑の顛末

  3. 8

    斎藤元彦・兵庫県知事が頑迷に貫く「治外法権」…公益通報を巡る国の勧告もガン無視

  4. 9

    もしやり直せるなら、入学しない…暴力に翻弄されたPL学園野球部の事実上の廃部状態に思うこと

  5. 10

    巨人阿部監督が見切り発車で田中将大に「ローテ当確」出した本当の理由とは???