精神より“下等”な肉体から統合失調症を考察

公開日: 更新日:

「こころは内臓である」計見一雄著/講談社 1650円+税

 ドキッとするタイトルである。解剖学者の三木成夫の本に「内臓とこころ」という本がある。これは排尿のときの膀胱の感覚、お腹のすいたときの胃袋の感覚など、内臓の感覚を述べたもの。対して本書のタイトルは、「こころ」の語源が「禽獣(きんじゅう)などの臓腑のすがたを見て、コル(凝)またはココル」であることからきている。

 著者は長年スキゾフレニア(統合失調症)の治療に携わる精神科医で、抗精神病薬治療の草分けであり、精神科救急医療という分野の開拓者でもある。本書は、スキゾフレニアという病気の根底に何があるのかをさまざまな観点から考察したもの。その際、従来は「崇高な」精神の働きに比して「下等」とみなされてきた肉体=感覚・運動・内臓の面から考え直してみようというのが著者の試みで、それがタイトルに示されているわけだ。

 長期入院患者の観察を通して著者は、スキゾフレニアという病気の根底には、「行為的な機能の低下、不自由さ」が関わっており、それと関連して「考えること」の禁止的メカニズムが働いているのではないかとみる。それがさらに進むと、感情の禁止・否認に陥り、それが思考の自由を奪ってしまう。そうした兆候を患者との具体的なやりとりを引きながら説明していくのでイメージがしやすい。

 書き方も学術論文とは程遠く、時にユーモアを交えながら、思いついたことを覚書のように記していく。この文章のスタイルも、整合的にはとらえられないこの病へのアプローチの仕方と共鳴しているのだろう。

 スキゾフレニアの日本での呼称は、早発性痴呆、精神分裂病、統合失調症と変遷してきた。これからもわかるように、この病は偏見・差別がつきまとってきた。本書には、そうした軛(くびき)から解き放ち、この厄介な病の実態をきちんと捉え、長期収容から社会内治療への促進を図りたいという著者の思いが強く感じられる。 
<狸>

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    ドジャース佐々木朗希「今季構想外」特別待遇剥奪でアリゾナ送還へ…かばい続けてきたロバーツ監督まで首捻る

  4. 4

    中日・中田翔がいよいよ崖っぷち…西武から“問題児”佐藤龍世を素行リスク覚悟で獲得の波紋

  5. 5

    西武は“緩い”から強い? 相内3度目「対外試合禁止」の裏側

  1. 6

    「1食228円」に国民激怒!自民・森山幹事長が言い放った一律2万円バラマキの“トンデモ根拠”

  2. 7

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  3. 8

    辞意固めたか、国民民主党・玉木代表…山尾志桜里vs伊藤孝恵“女の戦い”にウンザリ?

  4. 9

    STARTO社の新社長に名前があがった「元フジテレビ専務」の評判…一方で「キムタク社長」待望論も

  5. 10

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは