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メキシコに語学留学した翻訳家の格闘記

「60歳からの外国語修行」青山南著 岩波書店/820円+税

「六十の手習い」とは晩学のたとえだが、学問や稽古事を晩年に始めても遅すぎることはないという意味で使われることも多い。だが、こと外国語学習に関しては臨界期(その時期を過ぎると学習が不可能になる期間)があり、それは12、13歳までで、60歳では「完全にアウト」だと本書にはある。

 ただしこれは「ネーティブのような言語能力」を身につける場合で、簡単な会話と聞き取り、読み書きであればその限りではない―――とはいえ、かなり大変だろうが。

 本書は、アメリカ文学の翻訳と紹介を長年手がけてきた著者が、スペイン語学習を思い立ち、60歳を過ぎてメキシコへ語学留学した際のスペイン語との格闘ぶりを記したもの。

 まず理由から。2000年、米合衆国におけるヒスパニック系人口は12・5%を占め、従来の最大のマイノリティーであったアフリカ系(黒人)を上回った。それを証明するように、著者が目にするアメリカの現代小説にはスペイン語が頻出するようになり、英語の中にスペイン語が交じるSpanglish現象も起きていた。ならばスペイン語を学ぶに如(し)くは無し、と研究休暇を利用してメキシコへ行くことに。

 留学先はメキシコ第2の都市グアダラハラのグアダラハラ大学外国人学習センター。こうして75歳と70歳の姉妹の家にホームステイをしながらのスペイン語修業が始まるのだが、初級者ならではの素朴な疑問や面白い発見、そして登場する単語の説明は、スペイン語の良きガイドになっている。

 無論、話は語学だけにとどまらず、歴史、食べ物、道路事情、テレビのメロドラマといったものにも及び、メキシコ文化論としても秀逸。

 なにやら英語ばかりが外国語だとする風潮が強まっている日本だが、4億人以上の話者を有し、20以上の国と地域の公用語となっているスペイン語。著者に倣って、六十の手習いといきましょうか。
<狸>

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