「水曜日の凱歌」乃南アサ著
8月15日が誕生日の鈴子が物心ついたときから、日本はずっと戦争中だった。運送会社を営む父が事故死して以来、裕福だった暮らしは一転。きょうだいも戦死したり空襲で亡くなったりで、7人だった家族は母と鈴子の2人だけになってしまった。
空襲で焼け出され転々とする母子は、父の友人「宮下のおじさん」の助けで何とか生き延びてきた。鈴子はやがて家に泊まっていくようになった宮下のおじさんを好きになれない。やっと戦争が終わり、鈴子は14歳になった。数日後、母が住み込みで働くことになり、鈴子も一緒に寮に移る。英語が話せる母に宮下のおじさんが持ち込んだ仕事とは、占領軍のために国がつくった慰安所の通訳だった。
少女の視線で知られざる戦後の断面を描く。 (新潮社 940円+税)