【発達障害の時代】子どもから大人まで、いまや全世代が心に悩みをかかえた“発達障害”の時代だ。

公開日: 更新日:

「共感障害」黒川伊保子著

 あいさつをしても返事がない。人の話にうなずきもせず、黙ったまま。同僚が片づけているのに自分はぼんやり。そして目の前の相手と目を合わさない……。それ、うちの職場の若手だよという人は多いのでは? 

 実はこのすべてが著者のいう「共感障害」の実例。たとえば「上司とエレベーターに乗ったら自分がいち早く開閉ボタンを押さないと恥ずかしい」と教えても、驚くばかりでまったくできない。マーケッターとして職場の人間関係のカウンセリングなどを仕事にする著者は自分の学生時代から現在の自社スタッフとの経験まで、あらゆるものを観察対象として「共感障害」という概念を編み出した。

 背景にあるのは大衆社会全体の認識フレーム。たとえばバブル時代はワンレンボディコンで直線ばやり。CMの「24時間戦えますか」も、あの世代の気持ちが強かったのではなく文化祭前夜のような高揚感が当たり前だったのだ。いまは逆でエクステまつげの曲線時代。人の気持ちも猫背で内向き。そんな時代を見抜くのが大事と説く。(新潮社 1000円+税)

「発達障害 グレーゾーン」姫野桂著

 近ごろよく耳にする「発達障害グレーゾーン」とは、知的な遅れはないけれど適応力につまずきがある状態。性や社会問題について取材を続けるフリーライターの著者は、自分も発達障害をかかえるという当事者。本書はその「内なる目線」から見たルポだ。「普通の人が簡単に出来ることが、出来る、けれども無理してやっているのでその分疲労もたまりやすい」という見方は当事者ならでは。他方、家族や職場など周囲に発達障害がある人がいる場合にも参考になりそうだ。 (扶桑社 820円+税)

「天才と発達障害」岩波明著

 進化論のダーウィンは人嫌いで引きこもり。その社会性の欠如は明らかにASD(自閉症スペクトラム)の特性。逆に作家テネシー・ウィリアムズや哲学者デカルトは一カ所に落ち着けず、住まいを転々とする遍歴者。

 これはセンセーション・シーキング(常に刺激を求める)やマインド・ワンダリング(思考が拡散する傾向)と呼ばれ、天才らに多い特徴だ。

 精神科医として長年、発達障害に取り組んできた著者は抑うつ、統合失調症、ADHD(注意欠如多動性障害)などさまざまな精神疾患に悩まされた古今東西の天才たちを例に、人の心の複雑さをわかりやすく解説している。 (文藝春秋 820円+税)

【連載】本で読み解くNEWSの深層

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    大手家電量販店の創業家がトップに君臨する功罪…ビック、ノジマに続きヨドバシも下請法違反

  3. 3

    落合監督は投手起用に一切ノータッチ。全面的に任せられたオレはやりがいと緊張感があった

  4. 4

    自民党総裁選の“本命”小泉進次郎氏に「不出馬説」が流れた背景

  5. 5

    「二股不倫」永野芽郁の“第3の男”か? 坂口健太郎の業界評…さらに「別の男」が出てくる可能性は

  1. 6

    今思えばあの時から…落合博満さんが“秘密主義”になったワケ

  2. 7

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性

  3. 8

    三谷幸喜がスポーツ強豪校だった世田谷学園を選んだワケ 4年前に理系コースを新設した進学校

  4. 9

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  5. 10

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋